蕎麦で町おこしなんてできるの?――『蕎麦、食べていけ!』著者新刊エッセイ 江上剛

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蕎麦、食べていけ!

『蕎麦、食べていけ!』

著者
江上剛 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912246
発売日
2018/05/18
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

蕎麦で町おこしなんてできるの?

[レビュアー] 江上剛(作家)

 私は、講談社の「IN☆POCKET」で料理研究家枝元(えだもと)なほみさんと一緒に料理を作る様子を面白おかしくエッセイに書く「せめて昼メシ」を十年ほど連載している。枝元さんは料理による町おこしにも積極的に取り組んでいるのだが、彼女のところに群馬県沼田(ぬまた)市の老神(おいがみ)温泉から、ひな祭り料理のアドバイス依頼が舞い込んだ。

 老神温泉は片品川(かたしながわ)沿いにある。少し足を延ばせば東洋のナイアガラと言われる吹割(ふきわれ)の滝や水芭蕉で名高い尾瀬沼(おぜぬま)などの観光地がある。湯はアルカリ単純泉で肌に優しい。枝元さんは腕によりをかけて地産地消料理を作り、ひな祭りの日に観光客や地元の人々に振る舞った。私もご相伴にあずかったのだが、それが私と老神温泉との出会いとなった。

 酒を飲みながら観光協会役員、リンゴ園経営者、蕎麦屋さん、農水省関係者などいろいろな人たちと夜を徹して話し込んだ。バブル時代の賑わいと比べようもない寂(さび)れた現状、観光ホテルの破綻などの暗い話から、リンゴやブルーベリーなどの果物や蕎麦がめっぽう美味(うま)いことや、ギネスブックに登録された百八メートルの大蛇が町を練り歩く大迫力の大蛇祭りなどの明るい話も伺った。

 その際、高校生蕎麦打ち選手権が話題に上った。初耳だった。なんですか、それ?

 全国の高校の蕎麦打ちサークルが年に一度、一堂に会して腕を競い合う蕎麦打ち甲子園のことですよ。地元の利根(とね)実業高校の蕎麦打ちサークルがその大会を連覇しているんです。蕎麦打ちを指導するのは地元の蕎麦屋さんたちです。

 私は、興味を覚え、早速、利根実業を訪ね、蕎麦打ちサークルの活動を取材した。高校生たちが真剣に蕎麦を打っている。きびきびとした手つきが凛々(りり)しく清々(すがすが)しい。彼らを主人公に町おこし小説を書いてみたい。それで老神温泉の活性化に少しくらいは貢献できるのではないか。『蕎麦、食べていけ!』を書き上げた今、早く本書を持って老神温泉に行き、高校生たちが打つ美味い蕎麦を食べたいと切に願っている。

光文社 小説宝石
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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