人を嫌い、人を乞う女。心を抉る物語『にんげんぎらい』 大西智子

レビュー

7
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にんげんぎらい

『にんげんぎらい』

著者
大西智子 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912116
発売日
2018/03/14
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

人を嫌い、人を乞う女。心を抉る物語

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 二〇一四年に、不倫の傷を抱えた二十代ののりことかたくなにしゃべろうとしない小学三年生のぱちことの交流を愛おしく描いた「カプセルフィッシュ」で、小説宝石新人賞優秀作に選ばれ、翌年、その受賞作を含む同名の連作短編集でデビューを果たした大西智子。心の傷口をこじ開けてのぞき込むような人間観察力と、赤裸々な毒気をまぶしたクールでキレのいい心理描写力を遺憾なく発揮した『にんげんぎらい』は、期待を裏切らない面白さだ。

 ATMの部品を作っている下請け工場でパート勤務をしている主婦、まり江の語りで物語は進む。まり江はパート仲間の間でも浮いていて、ひとり娘の咲季のママ友LINEでも仲間はずれ。夫は数ヶ月前に出て行った。思考を鈍磨させたくてアルコールに逃げ、ずっとセックスレスだった夫に向けて、リビングに設置したウェブカメラに自慰行為を見せつける爛れた日々。合わせ鏡のように似ているからこそ、同族嫌悪し合う夫婦の溝は、修復不可能かに見えたが……。

 彼女の日常に、決定的な悲劇はない。それがかえって、人づきあいの距離感やSNSなど現代のコミュニケーションの問題、経済的な追いつめられ感など、プチ不幸を際立たせる。

 己が嫌悪していた生き方にずぶずぶと搦(から)めとられていくまり江に対し、不快感を覚えつつも我が身と重ねて考えずにはいられない。誰もが、このくらいの幸せとこのくらいの不幸せを代わる代わる味わいながら生きているのだろうと思わせるリアリティーがすごい。家族や同僚たちとの紆余曲折を経た後に〈命以外のことは、やり直しがきくということだろうか〉とまり江が独りごちるラストは不思議と清々しくて、背中を押された心地になれる。

光文社 小説宝石
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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