いつも親子は“真剣勝負” ジェーン・スー×しまおまほ

対談・鼎談

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

生きるとか死ぬとか父親とか

『生きるとか死ぬとか父親とか』

著者
ジェーン・スー [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103519119
発売日
2018/05/18
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【『生きるとか死ぬとか父親とか』刊行記念対談】ジェーン・スー×しまおまほ いつも親子は“真剣勝負”

[文] 新潮社

「奇跡の三点倒立」

スー 縁起でもない話だし、あくまで仮定のものですが、しまおさんがお父さんとお母さんのどちらかと一緒に残されるとしたら、どっちがいいですか?

しまお うーん、父と残る方が精神的には楽。バイオリズムが似ているから。特に子供を産んでから、母とはやっぱりお互い女同士なんだなと思うことが多くて。

スー それはちょっとうらやましいですけどね。私は母の母としての顔しか見てこなかったし、母が女として私に嫉妬したり、意地悪してきたりはなかったから。母は、母親が子供に対してやってはいけない、ということを一切しなかったんです。それをありがたいと思う反面、息苦しかっただろうなと今は思います。

しまお そうかあ。でも、父と残されると、世話の塩梅が大変かも。

スー 望まずにその状態になったけど、結構えぐかったですよ。この人、こんなダメだったのか、ということがわかって。

しまお 父は、今も私がご飯を作るのを嫌がるんです。

スー それは照れなんですかね。

しまお 照れだと思います。自分のために尽くす娘を見たくない、という空気も感じます。その点では母と二人の方が日常生活は円滑に進みそう。

スー 特にひとりっ子の家族というのは、「奇跡の三点倒立」と言えるような、絶妙なバランスで成り立っていますよね。それが一点だけでも欠けてしまうと、面だったものが線になって、パタンと倒れてしまう。

しまお まさにその時の経験を、この本に書かれていましたね。

スー はい。しまおさんは、親の愛情をどういうところで感じていましたか?

しまお うーん、物を全部残してくれているところかな。子供の頃から、「これは後で何かの役に立つから」と漏れなく残しているんです。

スー それはうらやましい! この本でも書きましたけど、うちは母が亡くなった後に実家を手放さざるを得ない状態になって、その時にあらかた物品を整理しちゃったんです。以来、どこか流浪の民というか、聖地を無くしたような感覚があって。けれど、しまおさんの場合、それは本当にご両親の愛情の表れですね。

しまお はい。それには感謝しています。だから、両親と自分が近い職業に就いているというのは、やりにくい部分もあるけど、理解があるから助かっている部分もあります。

スー その感じは想像がつかないな。うらやましいです。うちの父は頭のてっぺんからつま先まで商売人だったから。面白いのは、父を見ていれば業績の良し悪しがすぐわかること。それが、乗っている車のランクでわかっちゃう。

しまお うちは車もずっと無かったし、ずっと「貧乏だ、貧乏だ」と言っていました。ある時、父が口座の残高が書かれた紙を家に貼ったのですが、残高が数百円でした(笑)

スー それは穏やかじゃない(笑)

しまお 金銭感覚に疎いというか、頓着していないんですよ。

スー そこもうちと真逆。とにかく父は、ある時期まで家庭を顧みず、フル回転で働いて、自分の存在根拠も仕事にのみあるような人でしたから。それまで自分が父に似ているところなんか一つもないと思っていたのに、仕事、仕事というところがそっくりということに、私が社会人になってから気づきました。

しまお スーさんも働き者だから。

スー 母が亡くなって、父が全財産を失ったところをリアルタイム中継で見ていたから、稼いでも稼いでも不安なんです。そういうところが似ちゃったというか、親の影響を確実に受けていますね。

しまお 私も金銭感覚は親の影響を受けていますね。あればあるだけ使っちゃうし、なければないで使わなきゃいいというか。まあ、それも母の実家に家族が住むことができて、ちゃんと家があったというのが大きいと思います。

スー そこが面白いですよね。とにかく「金を稼がなきゃ!」という私と父のような人間が家を無くし、「お金に執着していない」という島尾家は都内にちゃんと家がある。なんというアイロニーでしょうか(笑)

新潮社 波
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク