『月の炎』 板倉俊之著

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月の炎

『月の炎』

著者
板倉 俊之 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103515913
発売日
2018/02/22
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『月の炎』 板倉俊之著

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

シャイな優しさにじむ

 昨今あまたいるお笑い芸人の中でも、洒脱(しゃだつ)なコントで定評があるのがインパルスの板倉俊之氏だ。単純な笑いではなく、心の機微などを利用した論理的な笑いに持ち味がある。

 そんな著者は小説を書きだして約10年、4作目の本作はミステリーのようでありながら、善と悪といった難題にも取り組んだ意欲作だ。

 主人公は、消防士だった父を2年前の火事で失った小学5年生の一ノ瀬弦太。彼の住む地域では、皆既日食があった直後から不審な火事が相次いで発生する。なぜ火事が起きるのか。弦太は友人とともにその謎を探りに動きだす――というのが大まかなストーリーだ。

 展開は早くなく、主人公の日常生活やそれに伴う彼の考えから人物の描写がしっかりと描かれる。そこには父から諭された教えもある。

 <何かで迷ったときは、まず損得勘定を捨てて、それから、一番正しいと思うことを選ぶんだ。正しいと思うなら、たとえどんな代償を払うことになろうとも、そっちを選ぶのが男だ>

 そんなまっすぐな思いをもった主人公の周囲には、小学生らしいキャストが配される。

 仲のいい涼介、気になっている女の子の茜(あかね)、いじめられっ子の隼(しゅん)、ミニ四駆の師匠で大学生の南雲や担任の時任先生……。弦太は涼介や隼とともに学校の裏にある「基地」に集まっては火事の犯人を探す作戦に出る。

 構成も巧みで、伏線も丁寧に回収される。また、最後のクライマックスに至る流れでは、2度3度と変転がある。最後に明かされる背景には多くの人が胸を打たれるだろう。

 こうしたプロットのよさとともに、読んでいてひしひしと感じるのは、著者の控えめなやさしさだ。主人公が弱い者をかばおうとするところや折々で記されるシャイな感覚。著者本人もそんな人なのではと思えるだけの魅力がある。「芸人の書いた小説」ではなく、新進気鋭の作家が書いた小説と胸を張って言える作品だ。

 ◇いたくら・としゆき=1978年生まれ。お笑いコンビ「インパルス」のネタも書くボケ役。小説は今作が4作目。

 新潮社 1600円

読売新聞
2018年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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