『法廷弁論』 加茂隆康著

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法廷弁論

『法廷弁論』

著者
加茂 隆康 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062210201
発売日
2018/04/19
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『法廷弁論』 加茂隆康著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

今日的課題に斬り込む

 優れたリーガルサスペンス(法廷劇)の醍醐(だいご)味は、証拠と論理を駆使した検察官と弁護士の息詰まるような対決、裁判官による巧みな法廷裁きと判決にあるのは言うまでもない。と同時に、私にとっての関心は、社会が抱えている今日的課題がいかに映し出されているかにある。本作品はその期待に十分応えてくれる。

 テレビやCMで活躍中の丘野ヒロ子は才色兼備を絵で描いたような30代後半の弁護士だ。身体障害者の弁護で弁護士会の懲戒処分を受けたうえに、女性教授殺人事件の犯人として逮捕されてしまう。その弁護を頼まれたのが若きイケメン(と思われる)弁護士水戸裕介である。一体真犯人は誰なのか。

 身体障害者の年金詐欺や資産家老女の預金通帳から消えた1億6000万円、懲戒審査の行方などが絡まり合いながら事件は収斂(しゅうれん)していくが、この作品の一番の肝は法曹界に巣くう“暗部”の摘出、告発にある。

 その中でも、誰でも請求できる弁護士懲戒制度への批判は容赦ない。懲戒の審査は原則非公開で少数の委員によって恣意(しい)的に決められている。ドイツの「名誉裁判所」のように第三者機関に委ねないと公正な判断は期待できないと指摘してやまない。そして事件の背後には、弁護士人口の急激な増加によって顧問料のダンピングも起こり、経営が成り立たない弁護士が増えていることがあることもよくわかる。

 「鋼のような情熱」と「ピアノ・ソナタのような繊細さ」を併せ持つと丘野が言う水戸の発する言葉が味わい深い。「集められた不幸は、ひたすら耐えれば、いつか必ず、幸福に反転する日が来ます」「どん底の悲哀を味わってこそ、栄光のありがたさも身に沁(し)みます。逆境を乗り越えれば、復活が待っています」「いったんクロの先入観にとらわれると、容易にはその呪縛から解放されない。もしかすると潔白ではないかという疑いすら持とうとしない」

 ◇かも・たかやす=1949年静岡県生まれ。弁護士・作家。著書に『死刑基準』『審理炎上』など。

 講談社 1600円

読売新聞
2018年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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