『日中 親愛なる宿敵』 シーラ・スミス著

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日中 親愛なる宿敵

『日中 親愛なる宿敵』

著者
シーラ・スミス [著]/伏見岳人 [訳]/佐藤悠子 [訳]/玉置敦彦 [訳]
出版社
東京大学出版会
ISBN
9784130362689
発売日
2018/03/26
価格
5,184円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日中 親愛なる宿敵』 シーラ・スミス著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

公平で冷静な分析提供

 日中はライバルでありながらも、経済的文化的に親密さを保っている。政冷経熱と言われてきたこの関係が、予測された範囲を超えて近年悪化したのはなぜなのか。米国きっての知日派である著者は、詳細な調査をもとに日本の対中政策の難しさを解き明かしている。

 著者曰(いわ)く、日中関係が難しいのは特定の政権だけの問題ではない。多くの人が、日中関係の冷え込みは属人的なリーダーシップで解決できると思い込んでいる。しかし、歴史を繙(ひもと)けば、親中派とされる人物が日中関係を好転させることができたわけでは必ずしもない。中国は巧みに日本の親中派を厚遇し、批判的な人を冷遇する。しかし、そうすればするほど、戦略思考を持つ政治家とのあいだの対話が成り立たず、利害調整がしにくくなってくるのだ。

 著者は、日本国民が中国の台頭に過敏に反応し、反中感情を醸成したことを指摘する。それは中国の台頭や冷戦後の地政学的な現実によるものであって、単に右派などとしてレッテルを貼って片づけられるものではない。日本政府は利益集団の意見や国民感情から自由ではない。歴史問題としての靖国、餃子(ギョーザ)中毒事件に代表される食の安全問題、領有権をめぐる尖閣問題といったそれぞれ別個の問題が、対中政策に影響を与えている。

 本書の重要な価値は、ギスギスした日中関係に訝(いぶか)しさを感じる米国の読者に対し、これほど日本に公平で説得力のある分析を提供できているものが少ないことである。もう一つの価値は、日本の読者に対して、客観的な目線から冷静に日本の対中意識を解説している点だ。日本の中国専門家が中国について語る機会は多いが、意外に日本の対中意識が語られることは少ない。中国に苛立(いらだ)ちを深める日本にとっては、なぜそのような関係性に囚(とら)われているのか、構造を明確にすることで不安を自覚に変える効果があるだろう。伏見岳人、佐藤悠子、玉置敦彦訳。

 ◇Sheila A.Smith=米外交問題評議会上級研究員。専門は日本の政治、外交政策、北東アジアの安全保障。

 東京大学出版会 4800円

読売新聞
2018年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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