『合成生物学の衝撃』 須田桃子著

レビュー

6
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合成生物学の衝撃

『合成生物学の衝撃』

著者
須田 桃子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163908243
発売日
2018/04/13
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『合成生物学の衝撃』 須田桃子著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

驚くべき現実を追究

 合成生物学ということばをご存じの方は、まだ日本ではごくわずかだろう。生物学者であっても馴染(なじ)みのある人は未(いま)だ多くない。

 しかし日常生活とは縁の遠い学問の話、と悠長に構えている暇は、実はない。

 すでにこの世界では、ヒトを、そのDNA配列から、それも一から「合成」し、組み立てようというプロジェクトが始まっているのだ。その当初のもくろみ通り、十年程度で実現するかどうかは、まだ分からない。

 しかし微生物レベルであれば、すでに人類は、そのDNA配列の設計から始めて一から合成することに成功している。この二十年ほどの間に、パソコンや携帯電話の技術が、どれだけ急速に進歩したかを考えれば、現在既に微生物を合成できているなら、より合理的なDNAゲノムを持つ新たなヒトの合成も遠くはないと思われる。しかしその是非についての議論は始まっていない。

 この驚くべき現実を、本書は欧米流の本格的なサイエンスライティングで追究する。

 著者の名前に見覚えのある方もあろう。かの小保方事件を、自身の専門的理解を駆使し独自の推理を交えつつ緻密(ちみつ)に検証・報道した『捏造(ねつぞう)の科学者 STAP細胞事件』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した記者だ。米国での一年間の留学を好機として、この話題を読み解くのに最も適した第一線の研究者たちに直接取材した上で、独自にその取材内容をまとめ上げている。論文だけ、あるいは一般向け解説書だけを読んで仕上げたような、安手の「サイエンスライティング」とは全くの別物だ。

 惜しむらくは一年間という短期決戦式のせいか、本文二一九ページという分量はやや物足りないが、本テーマを周知するには過不足ない中身となっている。「合成生物学」、「遺伝子ドライブ」、「人工ゲノム」…このうち一つでもその中身を知らない方は、是非すぐに読んでいただきたい。その先に、議論が待っている。

 ◇すだ・ももこ=毎日新聞科学環境部記者。『捏造の科学者』の著者として、科学ジャーナリスト大賞も受賞。

 文芸春秋 1500円

読売新聞
2018年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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