片桐仁×小松貴・対談 昆虫愛!〈『昆虫学者はやめられない―裏山の奇人、徘徊の記―』刊行記念〉

対談・鼎談

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昆虫学者はやめられない

『昆虫学者はやめられない』

著者
小松 貴 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784103517917
発売日
2018/04/26
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

〈『昆虫学者はやめられない―裏山の奇人、徘徊の記―』刊行記念トークイベント〉片桐仁×小松貴/昆虫愛!

[文] 新潮社

小松貴さんと片桐仁さ
小松貴さんと片桐仁さん

さる5月9日に神楽坂《la kagu》で繰り広げられた“奇才”芸人と“奇人”昆虫学者の超絶マニアック昆虫談義。トコトン語って語り尽くせぬ昆虫たちの深奥なる世界。
日常生活には絶対に役立たない、その話の行き着く先は……偏愛か、偏執か、さもなくば変態か!?

昆虫を探そう!

 本日は昆虫学者の小松貴さんと、ある時は俳優、またある時は彫刻家、奇才の芸人、片桐仁さんのトークショー、題して「昆虫愛!」にいらしていただきありがとうございます。昆虫学者の小松さんはもちろんですが、片桐さんは昆虫などをモチーフとした精緻なオブジェの作成でも知られており、ご家族でも昆虫採集に出かけられるとか。今日は徹頭徹尾、昆虫話。マニアックなひとときを!

わかるかな~?
(写真1)わかるかな~?

 ということで、まずはウォーミングアップをいたしましょう。これからお見せする写真の中から昆虫を探して下さい。撮影はもちろん小松さんです。(写真1)

片桐 え、いっぱいいます? これ。

小松 ええ、これいっぱいいるんですよ。実のところ私も何匹いるのか把握してないんです(笑)。ただ、少なくとも十匹以上は確実におるんですよ。

片桐 全体に白っぽいですが雪ですか?

小松 これはですね、地衣類っていって苔みたいなものですが、その地衣類が生えてるところにだけいる昆虫です。

片桐 そんなところに!?

小松 えーとですね、これ実は、アリジゴクの仲間がいるんですよ。例えばここ。

これでどうにか!
(写真2)これでどうにか!

片桐 ああ、すごい! そう、これだ。これが口ですね。(写真2)

小松 そうです。牙がありますね。百八十度、ガッと開いてる形で、正式な名前はコマダラウスバカゲロウという……。

片桐 あ、やっぱりウスバカゲロウ、

小松 の幼虫です。

片桐 この状態で待ってるんですか。

小松 そうです。普通のウスバカゲロウの幼虫、いわゆるアリジゴクと呼ばれているやつは縁の下とか砂地にすり鉢みたいな巣を作ってるんですけど、この種に関しては巣を作らないんですね。地衣類が着生した岩の表面にへばりついたうえで、自分の体の表面にもその地衣類をいっぱいくっつけてるんです。

片桐 へー。

小松 その状態で牙をガッと開いて、獲物が来るのを延々待ってるんですよ。

片桐 何を食べるんですか?

小松 基本的に、歩いてきた虫だったら何でも食べるんですけど、ただ、こいつ、動かないんですね。本当に目の前に獲物が来てくれないと捕食行動に移れない。要するに射程が短いんですよ。なので、餌にありつける頻度がものすごく低いんですね。多分、半年ぐらい……。

片桐 え、半年って、マジっすか?

小松 何も食べなくても平気です。

片桐 嘘でしょ~。

小松 水っけさえあれば、ずっとこのまま待ってます。本当に気が長い虫です。

片桐 昆虫を探そう、っていうから、なんかもうちょっとね、コノハムシだったりとか、そういうのかなと思ったら、いきなりアリジゴクの仲間から始まった。

お尻の“足”でつかんでます
(写真3)お尻の“足”でつかんでます

――次、行きましょう。(写真3)

片桐 え、わかる? 枝じゃん。え、え? これ、どれですか。

小松 これ、実のところ、ど真ん中に写ってるのがそれでして。

片桐 え、え? こ、これですか?

小松 これです(笑)。これがですね、シャクトリ……。

片桐 まだわからない(笑)。

小松 (笑)。シャクトリムシなんですよ。

片桐 シャクトリムシ?

小松 はい。シャクトリムシといっても、シャクトリムシの中にもいろんな種類がいて、クワエダシャクという蛾の幼虫なんです。名前のとおり、桑の木の枝にだけついてるシャクトリムシの仲間です。お尻のところに枝をつかむための特別な足があって、これでずっとしがみついてるんです。で、実はこれ冬眠してる状態なんですよね。

片桐 冬眠してるんですか?

小松 はい。このクワエダシャクという蛾は、幼虫の状態で越冬するんですけれども、まったく野ざらしのこの枝のところに、この体の尻の近くにある、この二対の足っぽいもので……。

片桐 いや、もう足でしょ。それでずーっと冬の間、つかまってるんですか?

小松 そうです。もう雪や雨や風にもさらされながら、ここにずっとしがみついてます。

片桐 これも見つけるの大変でしょ?

小松 一見これ大変そうに見えるんですけど、慣れるとわりと簡単に見つけられるんです。

片桐 慣れるって、どのぐらいよ!

小松 一年ぐらいかかりました(笑)。

片桐 一年かけて……。

小松 慣れました。桑の木の太い幹から、ちょっと出てるような枝。強い風とかに晒されても、あまり折れないんですよね。

片桐 折れたら大ごとですからね。

小松 なので、そういう折れない枝の付け根部分に着目すると、初めて行く場所でも、わりとすぐに見つけられます。

片桐 これ初めて認識したとき、相当うれしかったですか?

小松 「それ見たことか!」と。

片桐 でも真冬に探しに行くんですよね。

小松 もう。それが生きがいですからね。

片桐 何だったら今日だって靴に泥すごいついてるから、「どうしたんですか」ってきいたら、今日も行かれたとか。

小松 はい。さいたま市の見沼田んぼに。

片桐 今日は何を見に行ったんですか。

小松 ホシアシブトハバチというハチの幼虫をちょっと探しに行って。残念ながらちょっと寒過ぎて、いなかったです。

新潮社 波
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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