リーダーに求められるのは「信」。ビジネスにもきっと役立つ『孫子』の考え方とは?

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世界最高の人生戦略書孫子

『世界最高の人生戦略書孫子』

著者
守屋, 洋, 1932-
出版社
SBクリエイティブ
ISBN
9784797392630
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

リーダーに求められるのは「信」。ビジネスにもきっと役立つ『孫子』の考え方とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

これまで世界のなかで数えきれないほどの戦争が起こってきた。戦うからには勝たなければならない。では、どうすれば勝てるのか。それを追求したのが兵法書である。 なにしろ戦争というのは、勝てば生き残るし、負ければ国を滅ぼしてしまう。その国なりその民族にとっては、ぎりぎりの瀬戸際である。そこをどう乗り切るかということであるから、兵法書にはその民族の最もすぐれた知恵が盛り込まれている。 中国でも、古来、多くの兵法書が書かれてきた。そのなかで、とりわけ広く読まれてきたのが『孫子』である。(「まえがき」より)

いまから2500年前に孫武(そんぶ)という兵法家によって書かれ、いまなお世界中で読まれている『孫子』について、『世界最高の人生戦略書 孫子』(守屋 洋著、SBクリエイティブ)の著者はこう説明しています。

『孫子』が軍事の専門家のみならず、ソフトバンクの代表取締役会長兼社長である孫正義氏、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏などの世界的企業家たちにも広く読み継がれているのは有名な話です。とはいえ競争社会を生き抜くための知恵は、経営者のみならず、すべてのビジネスパーソンに必要なものであるはず。

それだけではありません。著者によれば、人工知能(AI)が人間を凌駕し、人の仕事を奪っていくことが予測される状況下において、人間力を磨き、AI時代を生き抜くための極意が『孫子』にはたくさん詰まっているというのです。

本書は、その『孫子』からキーワードともいうべき名言をとりあげ、多くの事例を引きながら、わたしなりの解説をつけたものである。 その際、『孫子』だけではなく、他の兵法書や古典からも関連する名言を拾い上げ、それぞれに解説を加えておいた。強いていえば、そのあたりに本書の特徴があるといってよいかもしれない。(「まえがき」より)

きょうはそんな本書の第三章「知略で優位に立つ」のなかから、2つを抜き出してみたいと思います。

組織の勢いを重視する

善く戦う者は、これを勢に求めて、人に責(もと)めず

▶善戦者、求之於勢、不責於人。(兵勢篇)

戦功者は、なによりもまず勢いに乗ることを重視し、一人ひとりの働きに過度の期待をかけないもの。『孫子』は、わかりやすいたとえを引いてこう語っているそうです。

「勢いに乗れば、兵士は坂道を転がる丸太や石のように、思いがけない力を発揮する。……勢いに乗って戦うとは、丸い石を千仭(せんじん)の谷底に転がすようなものだ。これが戦いの勢いというものである」(112ページより)

たしかに、組織全体に勢いがあれば一の力を三にも四にもすることができるはず。逆に勢いがなかったら、せっかくの力も半減してしまうわけです。戦いにおいては、この違いが大きな意味を持つということ。

戦いにおいては、勢いに乗って一気に決着をつけることが重要である。 『諸葛亮集』もそれを指摘している。 「計謀は密ならんことを欲し、敵を攻むるは疾(はや)からんことを欲す」(便宜十六策) 作戦計画はあくまでも秘密にし、敵を攻撃するときは疾風のごとくあれ、というのである。(113ページより)

作戦計画というのは、いつの時代でもその国にとって最高の機密事項で、厳秘扱い。当然のことながら、そんなことが筒抜けになったのでは、せっかくの作戦もあっという間に水泡に帰してしまうことになります。

だからこそ敵はスパイを潜入させ、手を替え品を替え、計画を探り出そうとします。そのため、いやがうえにも慎重な扱いが望まれるということ。

また、「攻撃するときは疾風のごとくあれ」とは、次のようなことだそうです。

「敵を捕捉するときには鷹が獲物を狙うように、戦端を開いたら奔流する河川のように圧倒すれば、味方を損耗することなく、敵を撃ち破ることができる」(114ページより)

つまり、こちらが優勢なときは、敵に守る余裕を与えず、一気にたたみかけろということ。そうすれば、短期収束をはかることができ、味方への損害も最小限度に食い止めることができるというわけです。

長期戦ともなれば、経費もかさむし、兵の疲労もつのっていくもの。それを避けるためには、好機をとらえて短期収束をめざすのが賢明な戦い方だということなのでしょう。(112ページより)

現場の判断に任せる

君命(くんめい)に受けざる所あり。

▶君命有所不受。(九変篇)

君主、つまりトップの命令を、現場の責任者が受けなくてもよい場合があるのだそうです。それは、次のような考えから出ているのだとか。

「軍を率いて出陣するからには、将たる者が指揮権を掌握しなければならない。君主が横から口をはさんだのでは、作戦を成功させることはできない」(『三略』中略)(140ページより)

現場指揮官は、勝利を目指すためには、その時々の状況に応じて臨機応変の決断を下していくことが必要。そのため、それを妨げるような君主からの命令は、あえて受けないこともあるということ。

とはいえ現場指揮官の役割とは、あくまでも個々の戦闘における勝利であることを忘れてはならないでしょう。

君主はさらにその上のレベル、すなわち政治的判断によって、個々の戦闘の是非を検討すべき立場にあるもの。極端な言い方をするなら、もしも勝たないほうが国益にかなうのであれば、その軍を勝たせないのも君主の役割となるわけです。

このことを現場指揮官が理解できなかった場合、現場が暴走することになるかもしれません。その結果、個々の勝利は得られたとしても、のちのち大きな問題を残すことにもなりかねません。

そこで、勝利を目指すためには、君主と指揮官の連携が不可欠だと著者は主張しています。将たる者には「信」がなければならないということ。

「将は以って信ならざるべからず。信ならざれば則ち令行われず。令行われざれば則ち軍槫(まとま)らず」(『孫臏兵法』将義篇)

将たる者である以上、『信』があることが必要。なぜなら『信』がなければ命令を徹底させることができず、したがって軍をまとめることもできないから。

ちなみに「信」とは「ウソをつかない」「約束したことは必ず守る」という意味だといいますが、これも将たる者が持つべき重要な条件なのだそうです。

なぜなら、上に立つ者が二枚舌を使ったのでは、下の者の不信を買ってしまうから。一度くらいなら許されるかもしれませんが、二度三度とそんなことを繰り返していたのでは、完全にそっぽを向かれてしまうというわけです。

そうならないためには、上に立つ者ほど慎重に発言することが必要。心がけたいのは、自分にできることなのかどうか、善く考えてから返事をすること。そうでないと、すぐに「信」を失ってしまうという考え方です。

その弊害は、軍の場合は特に深刻だそうです。何しろ戦いは命がけの場。部下の信頼を失った指揮官は、土壇場に立たされたとき、あっさりと部下に見捨てられてしまうからです。(140ページより)

たしかに、紹介されているのはビジネスの現場に共通する考え方ばかり。解説も平易でわかりやすいので、多くの気づきを得られるだろうと思います。ぜひ一度、手にとってみてください。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年5月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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