元女性白バイ隊員が描く戦慄の「女性ハードボイルド」ミステリー

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虚の聖域 梓凪子の調査報告書

『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』

著者
松嶋 智左 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062210577
発売日
2018/05/17
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

元女性白バイ隊員が描く戦慄の「女性ハードボイルド」ミステリー

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞は作家島田荘司の単独選考による新人賞。本書はその第一〇回受賞作である。島田選となればどんな本格謎解きミステリーなのか期待したくなるが、本書は何と「女性ハードボイルドの収穫」なのだ。

 ヒロインの梓凪子は三三歳の独身興信所調査員で、物語は彼女の姉、未央子が未婚のまま生んだ息子輝也の葬儀から幕を開ける。未央子は輝也が何故デパートの屋上から飛び降りて死んだのか、調べるよう依頼。早くに親を失って以来、未央子は三人の弟妹の面倒を見てきたが、何かと威圧的で、末っ子の凪子とは犬猿の仲。おまけに苛めを疑う未央子の目は学校に向けられていたが、探偵にとって学校は不可侵の聖域だった。凪子は頑なに拒否するものの押し切られ、輝也の通っていた中学校に事情説明を受けに行く羽目に。

 しかし教師たちは生徒の面談調査中だが苛めの事実はないという。凪子は警察官時代の同僚、大須野達子に相談するが、トラブルを起こして退職した彼女に達子は取りつく島もなかった。凪子は輝也の姿を最後に見たデパート店員や輝也の親友、未央子の元恋人とも会って事情を聞くが、手がかりを得られない。伏せられた輝也の父親が誰か、改めて気になり出したとき、何者かの襲撃にあう……。

 凪子と未央子の性格は真逆だというが、凪子も闘争的で思い込みが激しく、随所で感情を爆発させる。案外似た者同士な気が。そこが何かとやせ我慢したがる男性ハードボイルドと違って面白い。物語のほうも、ありがちな学園ものと思いきや、新たな事実の判明とともに事件の局面も変わっていき、飽きさせない。戦慄の最後の一文までゆるみなし。

 著者は北日本文学賞や織田作之助賞等も受賞している即戦力派だが、元警官、それも日本初の女性白バイ隊員とのことで抽斗(ひきだし)も多そう。女性警官ものにも新風を巻き起こすか。

新潮社 週刊新潮
2018年5月31日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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