水谷さるころ×駒崎弘樹・対談〈『目指せ!夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』刊行記念〉

対談・鼎談

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

〈『目指せ!夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』刊行記念対談〉水谷さるころ×駒崎弘樹/未来を先取り!? 夫婦関係をカスタマイズする

[文] 新潮社

水谷さるころさんと駒崎弘樹さん
水谷さるころさんと駒崎弘樹さん

初婚→離婚→事実婚で再婚の著者が初めての出産で感じた夫婦関係のあれこれ。その全てをさらけ出したエッセイ漫画を、共働きで自身も二人の子育て中の駒崎氏と語り尽くす――。良好な夫婦関係は産前産後で9割決まる!

共働きの共家事、共育児

水谷 私はまだ利用したことがないのですが、駒崎さんが代表をされているNPO法人フローレンスの訪問型病児保育サービスや、私の居住区の渋谷区にある「病児保育室フローレンス初台」など、いざという時に頼れる場所があるというだけで安心できています。今日はお目にかかれるのを楽しみにしていました。楽しみにし過ぎて、なぜか夫までついてきてしまい……。

駒崎 ありがとうございます。野田さん、漫画そのままですね! 特徴をよく捉えている。対談にもぜひ参加して下さい。

野田 私も駒崎さんのお話をお聞きしたくて……勝手にすみません。

水谷 この漫画は私が事実婚で「再婚」し、体外受精で子供を授かり出産して、新生児期からの育児に共働き夫婦二人でどう向き合っていったかを描いたものです。出産・育児漫画なのに「子供可愛い!」といった子供の描写はほとんど出てこなくて、「産前産後の夫婦関係」を軸に据えました。

駒崎 かなり攻めた内容だなと、大変面白く拝読しました。

水谷 ありがとうございます!

駒崎 うちも共働きで、7歳の娘と5歳の息子がいます。彼らが生まれた時、それぞれ二ヶ月間ずつ育休をとりました。新生児期からのあの大変な時期を一緒に過ごしてみて、一人じゃ絶対に無理だと痛感してからは、「共働きの共家事、共育児」をモットーにやってきています。しかし世の中ではまだまだワンオペ育児がデフォルトとされているので、「ツーオペ育児」をこうやって漫画で分かりやすく提示して下さったのは、革新的だとも感じました。

水谷 私は30歳で焦って結婚して、仕事をしながら家のことも全て一人で抱え込みパンク、33歳で離婚した苦い失敗経験があって……。野田さんも離婚経験者ですし、今回の「再婚」ではお互いの反省を踏まえて、どうしたらフリーランスの私たち二人が心地よく生活できるかを一番に考えていっています。

駒崎 漫画の中で、妻である水谷さん側が夫である野田さん側に、かなりはっきり自分の意見を言っていますよね。それは「ツーオペ育児」における大きなポイントだと思いました。「自分がしっかりしなきゃ、いい母親(妻)にならなきゃ」と全てを抱え込んで、出来なかった時に「私は母親失格」みたいに思い込んでしまうとか、男性(夫)に期待しても裏切られることが多いから最初から期待しないなんて話も結構よく聞きます。

 そのように、社会の価値観を疑問なく無意識に受け入れて自分の価値観とする「内面化」を女性はしがちですが、怒るときは怒る、自分の気持ちをはっきり相手に伝える作業をきちんとし続ける「見本」を示してくれていますよね。

水谷 性別的なものか社会の圧によるものなのか分かりませんが、女性は「自己解決」しようと努める傾向にあると感じています。自分さえ我慢すれば、自分さえ頑張れば、と言い聞かせて本当に頑張ってしまって、男性は現状に気がつかないまま過ごしがち……。「妻や母なのにわがままは良くない、自己犠牲できて一人前」といった刷り込みがいつの間にか私の中にもあって、それが前の結婚生活において、いかにろくでもない結果をもたらしたのか、みなさんに伝えたかったんです。「我が家のルール」として20個提示したのも、より明確に読者の方にわかっていただくためでした。

駒崎 男性を立てて家のことをしっかりこなす――「内助の功」的な女性像が日本社会全体でまるで「呪い」のように共有されてしまっているので、それを僕ら世代が解除し、変えていかないといけません。

目指せ!夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで

家事の分担は向き不向きで

水谷 私も前の結婚の時には、「奥さんはご飯をしっかり用意するもの」と、毎日一汁三菜の夕食を頑張って作っていましたが、今は炊事の一切を野田さんがやってくれています。

野田 というか、漫画にも描いてある通り、この人は放っておくと三食カップ麺でも平気なんです。「こんな奴に炊事を任せておけるか!」と義侠心にかられて(笑)、得意というわけではなかったのですが料理をするのは嫌いではないので担当することにしました。

駒崎 向いている方が担当する、というのは合理的でもありますよね。

水谷 ええ。それでも、「女が炊事をしない」ことにあれこれ意見を言われることは少なくありません。でもお互いが納得していれば幸せ、と今は思えているので特に気にしていませんが。

 それに、炊事は家事のほとんどを占める!と個人的には感じているので、それを全部引き受けてくれたことは、私にとってかなり大きなことでした。やっぱり、子供のお世話に関しては私が負う部分がどうしても多いので、家事と育児を夫婦で完全にフェアにシェアすることは難しい。なので、どうしたら「気持ちの上でのフェア」になるのか、それを目標に自分たちでカスタマイズしていっています。

 駒崎さんご夫婦は家事や育児をどうシェアしているのですか?

駒崎 僕は一人暮らしで料理をしていても、一度も美味しいと思ったことがなく、一方で片付けは得意。だから、料理は妻の担当で、僕は食事の片付けと洗濯を担当、掃除はルンバに任せていますが、それをセットするのも僕の役目です。

 でも家事の中には「名もなき家事」というものもあり、例えばお風呂の排水溝の掃除などですが、それはいつも妻がやってくれていて、不満を言われたことがありました。僕としてはそれでも、妻5.5対僕4.5で分担していると思っていましたが、一度、全ての家事や育児を細かく書き出してそれぞれどちらが担当しているか可視化してみると、7対3だったんです。これはいかんと、話し合って分担を検討し直したことがあります。

水谷 「家事の可視化」、うちもやりました! 我が家もおおよそ、私7、野田さん3でしたが、今のところそれほど不満は感じていません。「見えること」で当事者意識も芽生えるので、パートナーに不満を抱える夫婦は一度やってみるといいと思います。

野田 当事者意識と言えば……漫画でも何度かその場面がありますが、つい二日前も「当事者意識が薄れつつあるぞ!」とシメられました(笑)。

駒崎 それは大変だ(笑)。でも、野田さんが等身大で描かれているところも、この漫画の素晴らしいところです。保活は水谷さんに任せっきりだったとか、養育費を払っているから自由に使えるお金はあまりないとか、ダメな部分をさらけ出しているのがすごく良い。

水谷 前作もそうでしたが、ありのままを漫画に描いても全然OKという懐の深さにはいつも助けてもらっています。

野田 人生のただの切り売りですが(笑)。

駒崎 例えば、野田さんが気が回って何でもできる“イクメン”だったら、普通の男性は、「俺には真似できない……」と違う世界の出来事として捉えてしまいますが、この漫画はそうではない。この野田さんの普通っぽさは、世間が考える素敵な「男性、夫、父親」というハードルを下げることにも繋がっています。

水谷 漫画の最後に、「野田さんはフリーランスで大して稼いでいるようにも見えないのに、二度目の結婚でも子供を作ってすごい」と年下の男の子たちから謎の羨望の眼差しを向けられるのですが、それに対して野田さんは……。

野田 だって自立して頼りがいのある女性を選んでるもん、と答えています(笑)。

駒崎 それってすごいですよね! 役にも立たない男のプライドなんてさっさと捨て去れば、結婚生活も子育てももっと楽しいものになるはずで、野田さんのその姿勢は未来を先取りしています。

水谷 私自身も、まさに男性に読んでもらいたいと思っていたので、そう言って頂けて本当に嬉しいです。

目指せ!夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで

幸せな人生のための「啓蒙書」

水谷 男のプライドといえば、「結婚したら一家の大黒柱にならないといけない」と思い込んでしまっている若い男の子も多くて、だから結婚に及び腰になってしまう。そんな男性たちも解放されて欲しい、楽になって欲しいと願っているんですね。育児をしない男性を責める漫画にする意図は決してありませんでした。

駒崎 それはきちんと伝わっています。年功序列で給料が上がることも、終身雇用が保証されることもない時代ですから、「結婚は経済的余裕ができる五年後にしよう」なんて考えはナンセンスです。しかも、これだけ女性も働き続ける世の中になってきていますから、むしろ結婚はセーフガードになる。もし自分が職を失っても相手が働いていたら、リスクは半減されます。

野田 そういう意味では、フリーランスこそ結婚すればいいのに、と私なんかは思っちゃいます。

駒崎 一度計算したことがありますが、妻が働くほど稼げる金融資産ってないんです。可能な限りその「投資」をした方がいいわけですよね。そうなると、家事や育児を夫が受け持つのは当然なのですが、社会全体が構造的に変わる必要がありますから、なかなか容易には実現できませんし、今はちょうどその過渡期です。この過渡期をできるだけ短くしないと犠牲者が増えるだけなので、この漫画が啓蒙書となってくれたらいいと思いました。

出産・育児漫画ではありますが、これから結婚する人にもたくさん読んでもらいたいですね。

水谷 事実婚を選んだのも、いかに自分が心地よく生きられるかを考えた上で、でした。「結婚」という型にはまるのではなく、結婚自体を自分たちなりにカスタマイズして、でも問題なく幸せにやっていますよ、と私たちなりに世間に伝えることができたら、ちょっとずつでも理解を得られるのではないかと考えています。

野田 自分たちなりに幸せな人生を送るための「実用書」として読んでもらいたいよね。

駒崎 実用書とはまさにそうですね。結婚もですが、働き方や生き方が多様化する今だからこそ、多くの人に読んで欲しい。

水谷 極端な部分もたくさんありますから、真似できることは真似して、試してもらえたら嬉しいです。

駒崎 これからも多様化のエッジを攻め続けてください!(笑)

新潮社 波
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク