『ナチズムに囚われた子どもたち 上・下』 リン・H・ニコラス著

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ナチズムに囚われた子どもたち(上)

『ナチズムに囚われた子どもたち(上)』

著者
リン・H・ニコラス [著]/若林 美佐知 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560096185
発売日
2018/03/17
価格
5,184円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ナチズムに囚われた子どもたち(下)

『ナチズムに囚われた子どもたち(下)』

著者
リン・H・ニコラス [著]/若林 美佐知 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560096192
発売日
2018/03/17
価格
5,616円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ナチズムに囚われた子どもたち 上・下』 リン・H・ニコラス著

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

凄惨を極めた受難史

 大人ではなく、子どもの目にナチ時代はどう映っていたのだろうか。選挙権もなく、病気や飢えに弱い子どもは、あの時代をどう生きたのか。本書は、ナチスの登場から崩壊後の数年にいたるまで、ドイツ国内と、独ソによって侵攻・占領された中東欧地域での子どもたちの受難を描いた分厚い歴史書である。

 本当にさまざまな子どもたちが登場する。ヒトラー・ユーゲントやドイツ乙女団で青春を謳歌(おうか)したり、人種主義を叩(たた)き込まれたりする子どもについては、比較的知られていよう。ほかにも疎開、安楽死、親との別れ、強制収容所への連行、強姦(ごうかん)、餓死など、本書は子どもたちの受難を網羅的に提示する。とりわけ、1944年6月にギリシアのディストモで起こった、パルチザンの攻撃に対する親衛隊の報復の描写は印象的だ。三五〇人の死者のうち、半数以上が子どもだったと推定されており、子どもどころか胎児までもいたぶり殺す、凄惨(せいさん)を極めるものであった。また、ナチスの崩壊とともに集団自殺に巻き込まれた乳児や、ベルリン市街戦のとき、敵軍の戦車を爆破して捕虜になった八歳の子どもにも言及されている。

 だが、子どもは歴史にただ翻弄(ほんろう)されるだけの客体ではなかった。抵抗組織に入り非合法のビラを普通の新聞に紛れ込ませて配ったり、パルチザンに参加し武器を握ったり、空襲の最中、瓦礫(がれき)を掘り起こす作業を大人に任せられたり。戦争終了後に食料配給の手伝いを大人に任され、はりきってテキパキこなした子どもたちの姿が、本書のなかでほとんど唯一明るい場面である。戦時戦後の食糧史としても有意義な本だ。

 悲劇は戦後も続く。生き別れた親の行方を探ることの困難、飢餓への恐怖、そして孤独が待ち構えている。ナチ崩壊後七三年を経たいまも、子どもへの残虐とそれへの抵抗は世界中に存在する。最後に示されるこの事実が実は最も戦慄(せんりつ)すべきことかもしれない。若林美佐知訳。

 ◇Lynn H.Nicholas=歴史家。著書に『ヨーロッパの略奪 ナチス・ドイツ占領下における美術品の運命』。

 白水社 上4800円、下5200円

読売新聞
2018年5月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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