『夢のウラド』 フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ著

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夢のウラド

『夢のウラド』

著者
フィオナ・マクラウド [著]/中野善夫 [訳]
出版社
国書刊行会
ISBN
9784336062468
発売日
2018/02/27
価格
4,968円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『夢のウラド』 フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

「二人」の作家の世界

 フィオナ・マクラウドといえば、芥川龍之介最後の恋人として知られる松村みね子の名訳『かなしき女王』や、荒俣宏訳『ケルト民話集』など、英国幻想文学好きにはおなじみの作家といっていいかもしれない。本書はそのマクラウド作品と、彼女の別名義ウィリアム・シャープの作品をまとめた短編集である。マクラウド、本名はウィリアム・シャープ。男性作家シャープが、女性作家マクラウドを名乗って活躍していたわけである。この事実は死後に判明、本書解説によると女性と信じて手紙でプロポーズまでしていた男性陣があわてふためいたとか。確かに女性だと思って書いた熱烈なラブレターの受取人が男性だったとあってはいささか決まりが悪かったに違いない。

 マクラウドは暗く悲しく美しいケルトの神話的世界を描いた。人も鳥も花も海豹(あざらし)も妖精も神々も共に在る夢幻幽邃(むげんゆうすい)な世界に読者をさまよわせて『古事記』を思い出すのもいい。『遠野物語』を思い出すのもいい。あるいは泉鏡花めいた作品世界に酔うのもいい。友人の漁師に聞いた話などと語り起こされても信用はならない。なにしろ人間の生まれ変わりのアザラシの物語だったりするのだから。

 ところが、である。本書後半に収録されたシャープの作品はといえば、キリスト磔刑(たっけい)を目撃した放浪の民の現代までに至る呪いの年代記など英国伝統の怪奇幻想小説を思わせる作品もあれば、ちょっとコミカルな恋愛小説もあり、仏植民地下アルジェリアの砂漠の反乱を背景とした仏軍兵士と現地人に育てられたスペイン人女性の運命を描いた戦争小説あり、ロンドンの闇社会に生きる女性とテムズ川水上警察官の悲恋と悲劇あり、いやはやなんともほんとに同一人物の作品なのとびっくり仰天に豪華絢爛(けんらん)。従来の読者にはその隠れた一面を、これからマクラウド世界に踏み入る人には格好の入門書に、いずれにもおススメです。中野善夫訳。

 ◇Fiona Macleod/William Sharp=1855~1905年。スコットランド生まれ。オカルト研究でも活躍。

 国書刊行会 4600円

読売新聞
2018年5月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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