<東北の本棚>豊かさ実現へ心を解放

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目的なき人生を生きる

『目的なき人生を生きる』

著者
山内 志朗 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
哲学・宗教・心理学/倫理(学)
ISBN
9784040821344
発売日
2018/02/10
価格
902円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>豊かさ実現へ心を解放

[レビュアー] 河北新報

 人生の目的がオリンピックの金メダルだとしたら、金メダルを取った選手は引退後、どう生きればよいのか。人生はまだ続く。なぜ人は目的を求めるのか。良い結果を出して褒めてもらうという応報思想が身に付いているからだ-。
 「人生に目的はない」と著者は書く。といっても、生きることの空虚さを述べているわけではない。全く逆かもしれない。目的がないと考えた方が、人生を豊かに過ごすことができるというのが著者の主張なのだ。「人生が意味だらけだと考えることが、足元をつまずきの石だらけにする」と指摘する。
 目的を持ち、必死になって頑張ることが良いことだと世間は考える。しかし、頑張ることが自己目的化し、強迫神経症的に人々を縛り付けてしまう。いつまでも頑張り続けることはできない。社会にあおられ、せかされ続ける人生をいつまで送ればいいのか。本書の根底にあるのは、豊かに生きるための意識改革を促す「解放の哲学」だと言えるだろう。
 「頑張れば願いはかなう」というのは、精神主義の典型的な症状で、日本社会を随分むしばんでいる。目的を求める心は「それは何のためだ、何の役に立つ?」と問わなければ、物事を始められない。目的がないことは、欠如や空虚ではない。むしろ自由な空間ということであり、器の大きさでもある-などなど。
 全編に満ちた刺激的な言葉は、視点を変えてみると、目の前に自由で豊かな世界が広がることを示している。その上で著者は、スピノザの哲学などにも触れながら、「目的論とその手下としての合理主義や功利主義」に反逆する「反倫理学」の可能性を追求していく。
 著者は1957年、山形県西川町生まれ。新潟大教授を経て慶応大教授。専門は中世哲学だが、現代思想、現代社会論、コミュニケーション論などについても幅広く研究している。
 KADOKAWA0570(002)301=886円。

河北新報
2018年6月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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