失われつつある昭和カルチャー 「キャバレー」「ダンスホール」写真集

レビュー

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“ドリーミーな非日常空間”を客観的に記録した貴重な資料集

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 1月の銀座『白いばら』閉店は、やけにニュースで取り上げられたが、グランドキャバレーも秘宝館や見世物小屋や鏡張り・回転ベッドのラブホテルなどと同様、いま消滅しつつある昭和のポピュラー・カルチャーである。そういうタイミングで出版されたのが、この写真集だ。

 2017年8月の閉店直前に取材できた蒲田『レディタウン』に捧げられた序章に始まって、東京赤羽と北千住の『ハリウッド』から熊本八代の『白馬』まで、現在も営業を続けるキャバレー10軒。日比谷の『東宝ダンスホール』と鶯谷『新世紀』のダンスホール2軒。イベント会場として生き残っている鶯谷『東京キネマ倶楽部』など4軒。さらにはキャバレーのマッチ・コレクションやソファ、壁、照明などディテールに関するコラムも交えて、本書はいま日本に残るキャバレーのもっとも詳細なビジュアル資料コレクションといえる。

 かつての有名キャバレーの支配人やホステスの回想録はあるけれど、キャバレー、ダンスホールというドリーミーな非日常空間を、これほどまでにディテールにこだわりつつ、客観的に記録した資料はこれまで一冊もなかった。いくつかの店は僕も客として知っているけれど、写真に撮られたキャバレー空間は、時に実物よりずっと豪華で美しい。なぜなら、それまでほとんどキャバレー体験がなかった写真家と編集者の視線には、あふれる憧れと愛しかないから。

 あの、きらびやかな空間で、スター歌手やダンサーたちのステージに酔いしれたり、ドレス姿のホステスと踊るキャバレーの夜は、平成が終わろうとしているこの時代にもう甦ることはないだろうけれど、こうして記録だけでも残してくれた著者に深い敬意を表したい。

 そしてこの本をつくった編集者は、キャバレー遊びはもちろんのこと、お酒すらあまり飲めないという若い女性なのだった。

新潮社 週刊新潮
2018年6月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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