『インターンズ・ハンドブック』ほか “殺し屋小説”3冊

レビュー

7
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  • インターンズ・ハンドブック
  • 殺し屋
  • グラスホッパー
  • マリアビートル

書籍情報:版元ドットコム

殺し屋インターン 暗殺の心得を説く

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 殺し屋が身分を隠すのに最も向いている職業は何か。それは派遣インターンである、とシェイン・クーン『インターンズ・ハンドブック』(高里ひろ訳)は説くのである。

 語り手である“おれ”ことジョン・ラーゴは〈ヒューマン・リソース社〉に所属する殺し屋だ。〈ヒューマン・リソース社〉は表向きには人材派遣会社なのだが、裏では大企業の要人を狙う暗殺請負業を営んでいる。大企業のなかでは派遣インターンなど透明人間に等しく、重役たちがその名前を覚えることなど絶対にない。その割には重要な仕事ばかりが降ってくる。警戒厳重な要人に近づくチャンスがあるインターンは、暗殺におあつらえ向きなのだ。

 本書はラーゴが暗殺の心得を新入り達に伝授するために書いた指南書、という体裁を取っている。ラーゴは殺し屋からの引退を望んでおり、最後に課された任務の顛末に合わせて自身が培った殺しのルールを文字に残そうとするのだ。

 設定といい構成といい、どこを取っても奇妙で愉快な殺し屋小説である。ラーゴのペーソスと映画愛(やたらと映画の場面に例える癖がある)溢れる語りに乗せて描かれるのは、テンポの良いアクション、容赦のないバイオレンス、常に斜め上を行く展開の連続だ。熱いうねりに飲み込まれるような気分を抱きながら、読者は殺し屋最後の大仕事に付き合うことになる。

 ラーゴを気に入った方はぜひローレンス・ブロック『殺し屋』(二見文庫、田口俊樹訳)もどうぞ。主人公のケラーは冷酷な反面、切手収集に限りない情熱を注ぐなど、どこか人間的な一面も垣間見せる殺し屋。感情を極力削いだクールな文体と、滲み出るそこはかとないユーモアの要素が混ざり合わさった殺し屋小説の記念碑的作品だ。

 日本を代表する殺し屋小説といえば伊坂幸太郎『グラスホッパー』『マリアビートル』(ともに角川文庫)だろう。個性的な殺し屋たちが登場するこのシリーズでは、唐突な暴力描写の合間に笑いも顔を覗かせる。優れた殺し屋小説は、どこか笑えるものだ。

新潮社 週刊新潮
2018年6月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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