他人事ではない“カミングアウト”のいま
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
カミングアウトは「いま」を表すキーワードのひとつだ。「性的少数者であることを打ち明ける」という意味で使う。結果として人間関係を失ったり差別されることもあるため、カミングアウトは時機や環境をえらぶ、とてもデリケートな問題である。
『カミングアウト』は「東京プライドパレード」(性的少数者のパレード)の実行委員長もつとめた文化人類学者砂川秀樹の書いた「カミングアウトの現在」。読めば一気に、他人事ではなくなる。
性的少数者を迫害・差別する人は、彼らを「自分とは関係ない他者」と見ている。レッテルを貼り大勢の人間をひとくくりにし、個人として見ないから、たやすく差別発言ができる。民族や性別など、ほかのあらゆる差別と同様である。
この本はまず、レッテルのかげに隠れた「個人の顔」を見るようにうながす。そのために用意されたのは、八つの切実な事例だ。ひとつひとつを読んでいくうちに、カミングアウト問題は自分自身の生きる環境のなかにすでに存在していることがわかる。見ないように、気づかないようにして過ごすのはもうやめよう。鈍感は罪、不寛容は知性のなさのあらわれだからだ。
いま、人々は互いに監視しあい非難しあい、社会は息苦しくなるばかり。あらゆる個人が尊重される環境で、もっとラクな気持ちで生きたい。性的少数者が尊重される社会は、あなたが尊重される社会でもある。この本は、その可能性を見せてくれるのだ。