『あの人とあの本の話』
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新たな出合いの場に
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
編集者として勤務していた出版社を辞めてライターの仕事を開始した当初は、主に女性誌のあらゆるテーマの記事を書いていた。芸能人インタビュー、ファッション、ダイエット、映画、その他ライフスタイルに関する全般。そんななか、ある雑誌で作家インタビューのページを担当することになり、続けているうちに他の媒体からの書評や作家インタビューの依頼が増えていった。
そのひとつが、小学館の「きらら」だ。小学館の書籍の著者インタビューをした時、版元の担当者として同席していたのが、当時の「きらら」編集長の稲垣伸寿さん。後日「うちでもインタビューを書かないか」と声がかかり、二〇〇八年九月号から連載が始まった。当初はモノクロ二ページの記事だったが、開始まもなく、古川日出男さんの『聖家族』の取材内容があまりにも濃く、「二ページにおさまりません……」と稲垣さんに泣きついてみたら、あっさりと「じゃあ今後は四ページにしましょう」と回答がきて、その後ロングインタビューとしての連載となり、今も続いている。
連載が百回を超えたところで単行本にまとめる話が持ち上がった。それが形になったのが、『あの人とあの本の話』だ。残念ながらすべての記事を収録することは分量的に不可能なので、六十四人、六十八のインタビューに絞った(他の記事も問題があるわけではなく、いつかまたなんらかの形になればいいなとは思う)。登場作家を掲載順に途中まで記すと、米澤穂信さん、伊坂幸太郎さん、森見登美彦さん、平山瑞穂さん、原田マハさん、桜庭一樹さん、飴村行さん、小島達矢さん、羽田圭介さん、篠田節子さん、島本理生さん、大崎梢さん、朝井リョウさん、朝倉かすみさん、万城目学さん……全員のお名前を挙げたいが紙幅が足りない。
雑誌の著者インタビューの人選は二パターンある。編集部が決める場合と、ライターが新刊を読んで「面白い」と思ったものを選び、自分で取材をセッティングする場合だ。「きらら」は基本的には後者である。つまり、本書に掲載されている小説は、すべて私のお薦め本でもある、ということ。ページをめくりながら自分でも「この本面白かったな」「この記事を読んだ後で本を読み返すとまた味わいが違うんだよな」とうなずいてしまう。
好きな本について著者と話す機会があるとは、なんとも贅沢な仕事だ。と同時に、それなりに緊張も要する。感想を伝えるにしても「自分のこの読みで合っているか」「なにか読み落としていないか」と不安になるし、著者の真意をきちんと引き出せるかどうかのプレッシャーも大きい。ただ、長年この仕事をしているうちに、「知ったかぶり、理解しているふりが一番駄目」と思うようになった。こちらが背伸びしては、話が空回りするだけだ。逆に、こちらの目線の低さまで著者に降りてきてもらう気持ちでいたほうが、話ははずむ。つまりはそれだけ、作家たちが、真摯に、根気強くこちらの話につきあってくれた、ということだ。今回、書籍化にあたり記事を一気に読み返し、あらためて感謝の気持ちが湧き上がった。
記事を書くにあたって気をつけねばならないことは、何よりもネタバレ。本書のコラム欄にも書いたが、ミステリの真犯人といった話の真相だけでなく、自分が予備知識なく読んで「ああっ」と思った箇所についても、できるだけ明かさないように書いたつもりだ。だから、作品を未読の方にとっては漠然としてよく分からない部分もあるかもしれない。でもそこから興味を持って、実際にその小説を手にとってもらえたら、こんなに嬉しいことはない。インタビュー記事を書く第一の目的は、その作品と、その著者に興味を持ってもらうことなのだから。この本が、作家や作品との新たな出合いの場となってほしいと、切に願っている。