【自著を語る】このまま排除!?――大石直紀『ギロチンハウス 課長 榊江梨子の逆襲』

レビュー

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このまま排除!?

[レビュアー] 大石直紀(小説家)

大石直紀
大石直紀

 タイトルの『ギロチンハウス』とは、会社側がリストラしたい(つまり首切りしたい)社員を集めるために、中庭に建てられたプレハブ小屋のことです。公式名称は「セカンドキャリア戦略室」。でも、そんな呼び方をする社員はひとりもいません。

 ハウスに送り込まれた社員たちは、なんの仕事もさせてもらえず、勝手に小屋から出て行くことも、私語すらも禁止された状態で、勤務時間中ずっと監視を受けながら過ごさなくてはいけません。

 ときが経つにつれて、彼らは、目は虚ろに、動きは緩慢になり、ついには、生ける屍のようになっていきます。やがて、ほとんどの社員が、自発的に辞表を提出し、会社を去ることになります。

 おお、こわ! 

 でも、実際、似たようなことをしている会社は存在しています。しかも、世界に名を知られているような大企業でも。

 実は、ある新聞の特集記事の中で、企業の「リストラ部屋」の存在を知ったことが、この小説を書くきっかけになっています。会社勤めを一度も経験したことがないこともあって、記事の内容は私には衝撃的で、憤りさえ覚えました。

 記事を読み終えるとすぐ、私は、リストラ寸前社員が会社組織に立ち向かうという話が書けないかと考え始めました。

 本作の主人公は、有能な故に心ない男性社員たちから反感を買い、ついには罠に嵌められてギロチンハウス送りにされた課長・榊江梨子。彼女は、やはり何者かの策略でハウスに送られた冴えない中年営業マン・下島裕二と、若くてイケメンの係長・勝見亮と協力しながら、自分たちを陥れた黒幕の正体を探り始めます。

 総務部に君臨するお局社員や、派閥争いに敗れて会社を去った元女性役員などの力を借りて、徐々に黒幕の正体に近づく三人でしたが、そうしているうちに、想像もしていなかった会社の闇の部分を知ることになります。

 三人の前に立ちはだかるのは、冷酷無比な監査部長の丸子はじめ、自らの保身に必死のパワハラ三部長、さらにお坊ちゃま社長の胡桃沢。

 江梨子たちは、否応なく、巨大な敵との闘いに巻き込まれていきます。

 しかし、それだけではありません。リストラ担当女性係長への襲撃事件、社内不倫の果ての殺人事件、派閥争いなども複雑に絡み合い、江梨子たちの闘いは、思ってもいない展開に──。

 最後に三人は、あっと驚く奇策に打って出ます。

 元々、小学館のWEBサイト「ブックピープル」での連載だったこともあり、会社勤めの方々に通勤電車の中で気楽に読んでもらえるようにと思いつつ書いた作品でした。ですから、リストラがテーマのひとつになってはいても、暗いことも深刻なこともありません。くすりと笑えるような場面もあれば、ミステリーらしい謎解きやトリックなども出てきます。

 本の目印は、「ブルゾンちえみ with B」風に描かれた派手な表紙(イラストは、げみさん)。是非、手に取って、最初の数ページに目を通してみてください。多分続きを読みたくなるはずです(と願っています)。

 私としては、気軽に楽しんでいただき、最後にちょっとだけ爽快な気分になっていただければ幸いです。

小学館 本の窓
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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