リプレイもの、人格転移、if歴史… 使い古された設定もアイデア次第

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  • ハリー・オーガスト、15回目の人生
  • 接触
  • メカ・サムライ・エンパイア 上
  • ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上

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使い古された設定もアイデア次第で面白い

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 使い古された設定も、アイデア次第でいくらでも面白くなる。それを鮮やかに実証したのが、クレア・ノースの第一作『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(角川文庫)。題名から想像がつくとおり、中身は日本の漫画やドラマでもさんざん再利用されたリプレイもの。過去に戻って人生を何度もやり直す人の話ですが、この本では、そういう体質の人間が一定数いて、秘密組織をつくっている。あるリプレイヤーがその組織に叛旗を翻したら――という出発点から、思いがけない方向に話が転がる。まだそんな手があったとは!

 5月に出た『接触』は、その彼女の第二作。今回の主人公は、肌に触れることで相手の体に乗り移れる能力の持ち主。次々に体を乗り換え、18世紀から生きてきた。ゴーストと呼ばれるこうした特異体質者は(前作と同様)全世界にたぶん何百人もいて、ゆるやかにつながっている。しかも主人公はかつて、仲間に安全な物件(宿主)を紹介する、人体版の不動産仲介業者だった――という発想力がさすが。吸血鬼や魔法使いが普通の人間に混じって暮らしている小説はよくあるが、本書では、他人の体を好き勝手に借りられる憑依能力者を使って、その可能性を徹底的に追求する。秒単位で体を乗り換えてゆく逃亡劇、死体の山が築かれるゴースト同士の対決、性別も年齢もくるくる変わる者同士の恋愛関係……。人格転移とかよくあるパターンでしょ、と思う人ほどビックリできる小説だ。

 もう1冊は、原書(英語版)刊行より早く、この4月に邦訳が出たピーター・トライアス『メカ・サムライ・エンパイア』(ハヤカワ文庫SF、上下巻)。日本版が激しくバズった『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(同)の続編に当たる。もし第二次大戦に枢軸側が勝っていたら――という、これまたよくある設定の並行世界ものだが、今回は、大日本帝国統治下のアメリカで高度に発達した巨大ロボット(メカ)技術が主役。メカ操縦者養成学校を舞台に、まさに日本アニメ的な学園ドラマ+メカバトルを思う存分くり広げる。

新潮社 週刊新潮
2018年6月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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