「しゃべる」と「話す」の違いとは? 一瞬でハートをつかむ「しゃべりの技術」

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空気を読まずに0.1秒で好かれる方法。

『空気を読まずに0.1秒で好かれる方法。』

著者
柳沼佐千子 [著]
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784023317079
発売日
2018/05/21
価格
1,540円(税込)

「しゃべる」と「話す」の違いとは? 一瞬でハートをつかむ「しゃべりの技術」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

子どものころから人と接するのが苦手で、人間関係の悩みが軽くなることはなかったと明かすのは、『空気を読まずに0.1秒で好かれる方法。』(柳沼佐千子著、朝日新聞出版)の著者。社会に出ても同じだったといいますが、そんななか、コミュニケーションスキルについて勉強し、「実験」を繰り返していったのだそうです。そして、その結果、気づいたことが。

20年の間、試行錯誤を重ねる中で、私は徐々にやりすぎと言えるほどの表情や身振り・手振りをすると、相手からプラスのリアクションを得られることに気づきはじめます。そして、それは、相手の人柄や様子に合わせなくても、どんな相手に対しても同じでいいことがわかったのです。 (「プロローグ」より)

そうした大げさなほどの表情や身振り手振りは、好感を持ってもらうための「かたち」だと著者はいいます。それは武道や茶道などの「型」に近く、身につければ誰でも、どんな相手からも好感を引き出すことができるのだそうです。

この「かたち」を本書ではわかりやすく「フォーム」と呼ぶことにします。 この「フォーム」は、「相手の表情を読むのがヘタ」「空気を読めない人だと言われる」と悩んでいる人も、気軽に実践できます。なぜなら、空気を読む必要がないからです。むしろ、この本でお伝えする方法では、空気を読んではいけません。言い換えると、「空気を読まない」から好かれるのです。それが、この方法の画期的なところです。 (「プロローグ」より)

こうした考え方を軸として、本書では「顔のつくり方」から「伝え方」までを、経験に基づいて幅広く解説しているわけです。きょうはそのなかから、「しゃべり方」に焦点を当てたChapter 3「一瞬でハートをつかむ『しゃべりの技術』」を見てみることにしましょう。

正しく話せなくても大丈夫

著者によれば、しゃべりの技術のなかで最も重要な要素は「声」。しかし難しいことではなく、とてもシンプル。「美声ではないから」と、声の質で諦める必要はないのだそうです。

声は、その人の状態を如実に表すもの。たとえば相手の声を聞いて「あれ、なにかいいことがあったのかな?」と感じることもあれば、「きょうは体調がよくないのかな?」「いつもと違うな」と感じることがあるもの。

うれしいことがあったり、機嫌がいいときは、声のトーンが高めになり、声量も増すことになります。逆に気分が乗らない、体調がイマイチなときなどは声のトーンが低くなるので、その人の状態がなんとなく伝わるということ。

だとすれば、自分で意識して声の出し方をコントロールできれば、「なんとなく感じが悪い」と思われることなく、「いつも明るくていいね」と思わせることができるというわけです。

そして、しゃべりの技術で大切なのは、正しく、美しく話すことを追い求めることではないと著者は断言しています。そして、ここで引き合いに出されているのが「メラビアンの法則」です。

「話し手が聞き手に与える印象は、表情などの視覚情報が55%、声や話し方などの視覚情報が38%で、話の内容は7%に過ぎない」というメラビアンの法則をご存知の方もいるでしょう。 この法則は、アメリカの心理学者であるアルバート・メラビアンが、話し手が発する言語情報、聴覚情報、視覚情報が矛盾している場合、聞き手はどの情報を優先するか、という実験結果から導き出したものです。(34ページより)

メラビアンの法則では、話す内容(言語情報)と見た目(視覚情報)や声などの聴覚情報が矛盾している場合、人は話す内容よりも見た目や声の様子を頼りに内容を判断します。(86ページより)

つまり、商品の説明や言葉での案内など、伝えたい内容が同じであるとき、相手の感情に訴えかけることができれば、相手はこちらにより好印象を抱くともいえるというのです。正しく話すことに力を注ぐより、相手から「話していてわくわくする」「ほっとする」と感じてもらえるように注力する。それが最も大切だということ。

そして相手が「この人は私の話を聞いてくれて、話しやすい」と思えば、こちらから聞き出そうとしなくても話してくれるようになるといいます。だからこそ、その状態に持っていくことが大切だというわけです。(84ページより)

「しゃべる」と「話す」の違い

著者は「しゃべる」と「話す」の違いを重視しているそうですが、そのことを解説するにあたってひとつの例を挙げています。

今日は、特別な日に着る服がほしいと思い、知人に紹介されたブティックに予約をいれました。他の人に邪魔されることなく、ゆっくりと洋服を選ぶことができます。店員さんはその道のプロなので、洋服に対する悩みなども相談できます。私に似合う色を見つけてくれるかもしれないし、この夏の流行を取り入れたデザインであれば、オシャレな自分になれると期待感も高まります。 ワクワクしてお店に行くと、お店の入り口で店員さんが迎えてくれました。 「柳沼様、お待ちしておりました。このたびはご予約をいただき、誠にありがとうございます。ご来店を心よりお待ちしておりました」 このとき、気持ちがすーっとしぼんでいくのを感じましたーー。 声に抑揚がなく、淡々とした口調で硬い雰囲気なのです。丁寧な言葉遣いでの対応なのに、店員さんから歓迎の心は感じ取れませんでした。(88ページより)

著者はなぜ気持ちがしぼんだのでしょうか? 店員さんは敬語で話し、ていねいに対応していますが、その「正しさ」を最優先する姿勢が前面に出てしまい、「マニュアルどおりの対応」という印象を受けることになってしまったということ。

高級な雰囲気にふさわしい接客をすべきだと思うあまり、正しさやきちんとした感じだけが、行き過ぎてしまうことがあるもの。すると、お客様は慇懃無礼に感じてしまうというのです。そして、そうならないよう、明るい気持ちを引き出すために大事なのが「しゃべりの技術」なのだそうです。

ところで著者は、ラジオパーソナリティ、そしてアナウンサーとしての経験の持ち主です。どちらも似たような仕事のように思えますが、たしかに似てはいるものの、違う点があるのだそうです。

おしゃべりをするなかで、リスナーに情報を届けるのがパーソナリティ。おしゃべりなので、本人らしい言葉を選び、そこに感情を乗せることもできます。こうしたラジオパーソナリティのように、話すときの雰囲気を重視したものを著者は「しゃべり」と呼んでいるというのです。

一方のアナウンサーは、原稿を読んで伝えるため、「正しく読む、伝える」を優先させる立場。誰が読んでも同じように正確に伝えられるよう訓練をしているわけです。このように正しさを意識したものを、著者は「話し方」と呼び、「しゃべり」と使い分けているということ。

もちろん、どちらがいいとか悪いという問題ではないでしょう。しかし、相手の感情を動かすことを狙うには、アナウンサーのように正しい話し方・読み方を目指すのではなく、ラジオのパーソナリティのようなおしゃべりがベストだということ。そしてそこにマニュアル感は必要ないという考え方。

人に好かれること、好感度を高めることを目的とする場合には、「正しさ」は二の次にして、「しゃべり」の技術を上げることが重要だということです。

ラジオの現場では、パーソナリティという言葉は「番組の進行役」という意味で使われますが、本来は「個性」を意味します。まさに、自分自身の個性を使って相手に伝えるわけです。そのためには、つくられた原稿を読むのではなく、自分自身のおしゃべりが最大の武器になるということ。

先の例では、「お客様に来ていただき、本当にうれしい」という気持ちを言葉に乗せれば、お客様のワクワクした気持ちをしぼませることなく、より楽しい買い物にできるというわけです。(87ページより)

いつも聞き返される人は母音で解決

会話やスピーチの本などでは、滑舌よく話すことがポイントとして挙げられています。でも、どうやったら滑舌がよくなるのでしょうか? 著者もアナウンサーのレッスンを受けたときには、「聞き取りにくい」と何度も注意されたそうです。

それどころか、小学生のころにはすでに、「早口で聞き取れない」とクラスメイトから指摘され、人前で話すことに自信がなくなっていたのだとか。大人になってからも「いま、なんて言ったの?」と聞き返されることがたびたびあったのだといいます。相手に悪気はないとはいえ、何度も聞き返されるとコンプレックスになり、話すこと自体がつらくなったのだそうです。

しかし、そんなコンプレックスを打開したのが、母音をしっかり発音することだったのだといいます。

滑舌をよくするためには、口を大きく開く練習ももちろん大事。しかし著者の場合は、無アクセント地域に住んでいて、話し方もモゴモゴしていたため、それだけでは足りなかったというのです。そのため悪戦苦闘したそうですが、その結果、子音のあとの母音を意識してはっきり発音することで、一気に変わることができたのだとか。

練習のため、初めて自分の声を録音して聞いたとき、あまりにモゴモゴしていてショックを受けたと著者は振り返ります。ずっと声が悪いとは思っていたものの、そうではなく発音に問題があったということ。でも、いまでは自信を持って話すことができるようになったのだといいます。(93ページより)

「印象力アップトレーナー」を自称する著者は、子どものころから人間関係に悩み、そんな人生を好転させるべく、海外生活、保険営業、事務員、ラジオパーソナリティ、テレビアナウンサーなどさまざまな経験を積み上げてきたという人物。そんなバックグラウンドがあるからこそ、読者目線で「好かれ方」について考えられるのかもしれません。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年6月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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