『「コミュ障」の社会学』 貴戸理恵著

レビュー

6
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「コミュ障」の社会学

『「コミュ障」の社会学』

著者
貴戸理恵 [著]
出版社
青土社
ISBN
9784791770625
発売日
2018/04/24
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『「コミュ障」の社会学』 貴戸理恵著

[レビュアー] 伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

不登校の背景読み解く

 周囲とうまくコミュニケーションがとれない人は、社会から漏れ落ちているのではなく、否応(いやおう)なく社会に搦(から)め取られている、と本書は言う。

 場の空気を敏感に読んでしまう。それに合わせようと頑張りすぎて、ぎくしゃくしてしまう。さらには、そんな自分が他人からどう見られているかが過剰に気になってしまう。そもそもが教室やサークルなど「空気」を共有する狭い人間関係内部での演技の問題であり、「コミュ障(コミュニケーション障害)」は、実際の社会で異質な他者と関わるための「コミュニケーション能力」とは全くの別物だ。異常と正常の境界は曖昧であり、つながりにくさは過剰な搦め取られへと容易に反転する。

 本書は、不登校を事例として、コミュニケーション至上主義を背景にした私たちの生きづらさを読み解いていく。著者自身、小学校時代を学校に行かずに過ごした当事者でもある。「不登校経験を持つ不登校研究者」ならではの、理想論に堕(お)ちない多面的でしなやかな分析が光る。

 特に感銘を受けたのは、当事者概念をめぐる批判的な検討だ。前提として、ある人が抱える苦労は、当事者本人によって言葉を与えられるべきであり、専門家が一方的に診断したり支援者が勝手に代弁したりしてよいものではない。しかしその一方で、こうした当事者主権の考え方は、危うさも持っている。「当事者が言っているのだから間違いない」と、当事者の語りが権威化してしまい、共感的な専門家や援助者の関わりを遠ざける結果になってしまったり、「そのままの自分でいい」と現状肯定されることが、変わりたいと思っている当事者に葛藤をもたらしたりする可能性もあるからだ。

 一人の人間の中にも揺らぎがあり、一方でそれを私として産み落とす語りがある。最後の数章で綴(つづ)られる、母親としての戸惑いに満ちた語りも素晴らしい。

 ◇きど・りえ=1978年生まれ。関西学院大准教授。専門は社会学。著書に『不登校は終わらない』。

 青土社 1800円

読売新聞
2018年6月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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