『選曲の社会史 「洋楽かぶれ」の系譜』 君塚洋一著

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選曲の社会史

『選曲の社会史』

著者
君塚洋一 [著]
出版社
日本評論社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784535587274
発売日
2018/03/30
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『選曲の社会史 「洋楽かぶれ」の系譜』 君塚洋一著

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

偏愛、耽溺者への共感

 音楽に詳しい編集者によると、昨今はCDを買わず、数千万曲を保有するネットのサービスと契約し、聴く形態に移りつつあるという。そこには人気の選曲者がいて、その人の選曲によって人気が出る曲もあるらしい。だが、そんな時代になる以前、どんな曲、どんな洋楽に接するかは、センスや個性の形成に大きな影響をもたらしていた。本書はそんな洋楽との出会いについて、複数の角度から記された本である。

 1980年代半ば、ポップスのみならず、地中海、イスラム圏など、独創的な選曲で注目されたDJたち。90年代、ジャズやブラジル音楽、ソフトロックなどを組み合わせて洗練された音楽空間をつくり、渋谷系と称されるミュージシャンたちまで夢中にさせた編集者。そんな先進的な音楽好きたちを描いた章では、時代を切り拓(ひら)いていった様子が立ちあがってくる。

 戦前・戦後の横浜を捉えた章では、進駐軍の頃のモダンジャズ、ベトナム戦争の頃のロックやリズムアンドブルースが、米国の影響とともに流入してきた経緯がひもとかれる。

 また、ミュージシャンの故・松岡直也や細野晴臣の章では、彼らが米国に関係が強い地域で多様な音楽に接した古い時代が綴(つづ)られる。横浜の松岡は米軍が士気高揚のためにつくったVディスクというレコードに影響を受け、細野は米軍基地が近い狭山の「アメリカ村」で米国からの新しいロックに触れる。そして、それぞれ独自の音楽を創作していくようになった。

 取り上げられる楽曲は、マニアックなものから一般的なものまで幅広く、また、そうした楽曲をとりまく時代の空気感も描かれている。なにより伝わるのは、洋楽を偏愛、耽溺(たんでき)してきたような人へのシンパシーのようなものだろう。

 ネットで聴くような時代に「洋楽」が意識して聴かれているのかはわからない。だが、洋楽が文化や個性に影響を与えた時代があったことは、この社会史から熱とともに伝わってくる。

 ◇きみづか・よういち=1960年、横浜市生まれ。京都学園大人文学部教授。専門はメディア論など。

 日本評論社 2700円

読売新聞
2018年6月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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