<東北の本棚>起業家精神の原点知る
[レビュアー] 河北新報
「楽天」を創業し、20年で日本を代表する企業に成長させた会長兼社長の三木谷浩史氏(神戸市出身)はエリートのイメージが強いが、決してそうではない。タイトルが示す通り、少年時代は教師の手を焼かせる「問題児」だった。本書は氏の意外な素顔と挑戦の軌跡に追る。
中学時代の通信簿が驚かせる。5段階評価の2と3ばかり。中学1年でたばこを覚え、中高一貫制の私立学校は1年余りで退学。編入した公立中学でもマージャンや競馬、パチンコに入れ込んだ。高校2年の時点で学校の成績は350人中320番だった。
しかし、そこから一念発起。猛勉強を始め、1浪して一橋大に合格した。突然目覚めたのは、放任主義ながら息子を信じ、ここぞという時に諭した両親の存在が大きかったという。
大学卒業後は日本興業銀行に入行したが、「この銀行は10年後にはない」と読み、7年で退職。1997年、インターネット・ショッピングモールを運営する楽天の前身の会社を興す。社員6人で出発し、さまざまな新機軸で2年後には日本最大級のモールに成長させた。
挑戦は止まらない。最たるものが2004年のプロ野球参入だった。当時、プロ野球は伝統的なリーグ制への批判に揺れ、未経験者の経営参画は無謀と思われた。しかし「業界の古い体質を改革したい」という信念は揺るがなかった。透明性を意識したチーム運営、ファン参加型のイベントなどが着実に実を結んでいる。
未知の領域に果敢に挑む姿勢は起業家の真骨頂。根底にあるのは失敗を恐れない楽天性だろうか。無論、成績を気にせず奔放に育った少年期と決して無縁ではあるまい。スケールの大きい発想を育てる教育の在り方を考えさせる。
著者は1953年千葉市生まれ。東北芸術工科大教授。77年「鏡の中のガラスの船」で群像新人文学賞優秀作受賞。
幻冬舎03(5411)6222=1620円。