<東北の本棚>原発事故の不条理訴え
[レビュアー] 河北新報
福島県飯舘村出身の新聞記者が、福島第1原発事故で被災した故郷を思い、現地取材。同級生を訪ね歩いて体験を聴き、歴史資料を発掘してふるさとを見つめ直し、自らの存在証明を探ろうとする。なぜ関係のない村が被害を受けなければならなかったのか。歴史構造まで掘り込んで、原発事故の不条理を訴える。
自衛隊を辞めてUターン、酪農に励む同級生は、原発事故で村を去った。牛舎はつぶれたままだ。コメ作りにかけた別の同級生は、避難先で「豊作になった黄金色の田んぼ」を夢に見るという。今はすることもなくパチンコ依存症に。原発事故は一瞬にして村人の暮らしと夢を吹き飛ばした。
飯舘村はかつて山中郷(さんちゅうごう)と呼ばれる寒村だった。江戸時代は幾度も飢饉(ききん)に見舞われ、人口が激減した。原発事故報道で帰還困難区域として度々取り上げられる長泥地区は、江戸時代も飢饉で全滅した所だ。飢饉は自然災害、原発事故は人工災害だが、どちらも奥地の山村ほど大きな被害を受けていることを、資料調査であぶり出している。
「電気が欲しいなら、電気を使う東京に原発を造ればいい」「放射性廃棄物も、関東に移送するのが筋」と村人の本音を引き出す。地元出身の記者しかできないところだ。著者は1955年生まれ。仙台市在住。
現代書館03(3221)1321=1728円。