『「在宅ホスピス」という仕組み』
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“よりよく死ぬ”ための一助となる「参考書」
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
一昨年父を亡くした。倒れる日まで普通に暮らしていた父が、救急車で搬送されて一か月で亡くなってしまうとは思わなかった。ましてや死の瞬間まで苦しみ抜くなんて想像だにしていなかったのだ。
それから私は終末期の過ごし方について多くの本を読んだ。安楽死を含めて、今の日本で許される一番幸せな最期の時を過ごすにはどうしたらいいのかを探し求めた。
本書には私の理想に近いものが書かれていた。宗教に安寧を求めることが少ない日本人にとって、家族や地域の人びとに頼る仕組みはもっとも受け入れやすいと思う。
著者の山崎章郎は1990年『病院で死ぬということ』(文庫版は文春文庫)を上梓し大ベストセラーになった医師である。多くの人はこの本で初めて「ホスピス」という存在を知ったのではないだろうか。今では当たり前の存在となった終末期を過ごす施設だが、当時はかなり斬新だった。
あれから28年たち、著者はそこから一歩進んだ新たな最期の時の過ごし方を提唱している。
まずは2025年問題から考えなければならない。高齢化社会の問題の中に「死に場所が無くなる」という予測があることを本書で初めて知った。2025年には、わが国の年間死亡者数は約153万人に達すると推計されている。現在、病院で亡くなる人は約98万人。このベッド数は今後大きく増えることはないと思われるので、残りの55万人分の看取りの場を確保する必要がある。
死亡者だけではない。独居老人や高齢者夫婦だけの世帯も増える。それを解決するための「地域包括ケアシステム」の構築が喫緊の課題だ。地域の医師会、行政が中心となり全国的に活動が始まっているという。地域によって詳細は異なっているようだが、幸せな死の前に幸せな生活があることを忘れてはならない。
本書には、ともすれば漠然とした知識しかない「死」についてのリアルな情報が満載されている。死に至る過程は一回きり。共有もできない。緩和ケアの専門医として多くの死を看取った経験談はなるほどと思わせることばかりだ。
「自宅で死にたい」という希望を、家族の負担を少なくしたうえで叶えるためにはどうしたらいいのか。父が亡くなる前にこの本が読めたらよかったのに、と何度思ったことだろう。
「死にゆく人はみな師匠」という言葉が重く響く。よりよく看取り、よりよく死ぬための一助となる参考書であった。