三浦しをん三年ぶり長篇 書簡で描かれる「彼女たち」の関係

レビュー

6
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ののはな通信

『ののはな通信』

著者
三浦 しをん [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041019801
発売日
2018/05/26
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

読後、私はなぜここにいるのか、と自身に問いたくなる

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 あなたと私、という対の関係がこの上なく美しく描かれた小説だ。

 三浦しをん三年ぶりの長篇『ののはな通信』の主人公は野々原茜(のの)と牧田はな、名門私立女子高校で同級生になった二人である。

 学園中でうちが一番貧乏、と自嘲する〈のの〉は期待を押しつける両親に辟易しつつも、知性で自らの道を切り拓かんとする。自分には親友のような武器がないことを引け目に感じる〈はな〉は外交官の家に生まれ、真っ直ぐに育ってきた、誰からも愛される性格の持ち主だ。まったく違う二人だが、心は他の誰よりも近かった。やがて彼女たちは、運命の相手として意識し合うようになる。だが、その関係の真の価値に気づくには、二人ともまだ若すぎた。

 高校二年に在籍中の一九八四年から物語は始まる。四章構成の第一章では、ある醜聞を巡って彼女たちの間で忙(せわ)しく手紙が行き来する。本書は書簡形式で構成された作品で、時代が下って二十一世紀に入った第三章以降ではメールの文章も手紙に加わる。作中では長い時間が経過するが、その中で二人がどのように成長していくか、が本書の読みどころだ。

 十代の視野は狭い。だが純粋に一つのものを見続けることができる。やがて成長すれば広い範囲を見られるようになるが、逆に選択肢の多さに悩まされる。手紙のやりとりによって〈のの〉は〈はな〉の言葉を聞き、〈はな〉は〈のの〉の覚悟を教えられる。そうやって相手の姿を見ることによって自分が今どこに立っているかを知っていくのである。二人の距離は時に大きく広がる。しかし対の関係が壊れることはなかった。

 自分が独立した存在というのは錯覚で、必ず他の誰かによって生かされている。本書はそうした社会の関係性を、二人という特殊な形で表現した作品でもある。読後には、私はなぜここにいるのか、と自身に問いかけてみたくなるはずだ。

新潮社 週刊新潮
2018年6月21日早苗月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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