ものさしの女王にかわる新しい“測り方”

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ものさしの女王にかわる新しい“測り方”

[レビュアー] 小飼弾

 原器が終わり、原理に戻る。何事か? ものさしの事である。コミュニケーションの基本はおたがい同じものさしを使うことだが、比喩抜きのものさしなら、すでに19世紀から人類は同じものを使ってきた。時間はs(秒)、長さはm、そして重さはkg。事を推し量る、比喩としてのものさしの違う相手との会話には未だ悩む我々21世紀人だが、物のはかりすら異なる先人の悩みはもはやない。

 でははかりはどうやってはかったのか? 地球を南北に輪切りにした円周の4000万分の1で1m。1辺がその1/10の立方体すり切り1杯の水の重さが1kg。どの国家も民族も贔屓しない点で公平だが、しかしどちらも簡単にはかり直せない上、同じ数字が出ない。なので、ある時点でそれを「もの」に写し取り、今後はその「もの」の方を定義にすることにした。それが原器。1個しかないので、同じ数字が出ないことはありえない。パリを占領したナチスすら手を触れなかったほど大事な、ものさしの女王。

 しかし一つしかない原器は、誰でも再現できるかという点で原理に劣る。常に同じ数字が出る原理はあるのか? 前世紀の2大発見、相対論と量子論はそれがあることを実証した。不変で普遍な光速に、不変で普遍な原子から出る電波の周波数=時間の逆数をかければメートル原器はもういらない。

 ではキログラム原器は?同じものさしを使う全ての人々よ、『新しい1キログラムの測り方』(臼田孝)で確認を。

新潮社 週刊新潮
2018年6月21日早苗月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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