その生態から味まで “サメ愛”満載の書

レビュー

4
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ほぼ命がけサメ図鑑

『ほぼ命がけサメ図鑑』

著者
沼口 麻子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784062205184
発売日
2018/05/10

書籍情報:版元ドットコム

その生態から味まで “サメ愛”満載の書

[レビュアー] 鈴木裕也(ライター)

 ゼロ戦が上空を滑空できたのは、マイナス数十度にもなる地上数千メートルの環境でも固まらない潤滑油を使用していたからだという。驚くことに、その潤滑油は深海ザメの肝臓から取れる「肝油」から作られていた。肝油はビタミン豊富な健康食品としても貴重で、私も子供時代に毎日食べさせられていた。ほかにも、ヒレは高級食材として、サメ皮はワサビおろしや刀の柄に、肉はカマボコの原料にもなっている。これだけ身近な存在であるにもかかわらず、人はサメのことを知らなすぎる。“サメ愛”に溢れる、世界でただ一人の「シャークジャーナリスト」の著者は、そんな嘆きを原動力に本書を書いたのではなかろうか。

 確かに著者の言うとおり、サメといえば多くの人があの大ヒット映画『ジョーズ』に登場する人食いザメの姿をイメージするかもしれない。しかし実際には、いわゆる「人食いザメ」など存在せず、むしろ多くのサメは臆病で人の姿を見かけると逃げていく。アメリカでは約五〇年間にサメに襲われて死亡したのは二六人。その大半はパドリング中のサーファーを海中から眺めたサメが、好物・ウミガメと間違えて食いついたものだと、著者は冒頭から力説する。

 しかも、ひと口に「サメ」といっても、体長二〇メートルのジンベエザメから手のひらサイズのツラナガコビトザメまで五〇〇以上の種があり、食性から生息域までさまざま。寿命が四〇〇年のサメや妊娠期間が三年半に及ぶサメもいるというから驚きだ。著者は、それら個性あふれるサメの特徴や生態を、幾多の観察・捕獲・解剖体験を交えながら愛情たっぷりに描いている。読み進めるうちに、サメたちが愛らしく思えてくる。

 コラムも多彩な本書で、特に興味深かったのが「サメ界ミライのエース」と紹介される三人の子供たちだった。自力で発見した千以上のサメ化石コレクションを有する小学生、自宅で一五種類のサメを飼育する中学生、一歳でサメに魅せられたという小学生が、サメの研究者が集う学会で堂々と大人顔負けの研究発表をしているという。

 著者のサメ体験はサメ食にも向かう。高級フカヒレの繊維を麺に見立てた一杯四万五〇〇〇円のフカヒレラーメンをはじめ、美味しいサメ料理を求め日本全国を飛び回る。もちろんサメを観察するチャンスがあれば、日本国内はもちろん海外にも積極的に遠征。スコットランドでは、低体温症で死にかけながら貴重なウバザメ観察ツアーに参加もする。

 どこをとってもサメ一色で、サメに関するあらゆることが網羅された本書は紛れもない「サメ図鑑」。そして「ほぼ命がけ」と謳っている著者が、「命」というより「人生」をサメに懸けていることも間違いない。

新潮社 新潮45
2018年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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