『ビットコインはチグリス川を漂う マネーテクノロジーの未来史』 デイヴィッド・バーチ著

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ビットコインはチグリス川を漂う

『ビットコインはチグリス川を漂う』

著者
デイヴィッド・バーチ [著]/松本裕 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784622086949
発売日
2018/05/17
価格
3,672円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ビットコインはチグリス川を漂う マネーテクノロジーの未来史』 デイヴィッド・バーチ著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

通貨の歴史と将来

 ビットコインは暴騰を経たのち急落、大手取引所のコインチェックはハッキングされ、中国政府はコインの採掘所を規制し始めた。仮想通貨をめぐる状況は混沌(こんとん)としている。だがすでに私たちは「現実通貨」たる現金ばかりを使っているわけではない。クレジットカードや交通系の電子マネーは社会に定着して久しいし、銀行預金は電子情報として管理されている。ただし仮想通貨はクレジットカードや電子マネーと違って、スマホで人から人への移転ができる。現金と違ってATMから引き出す必要はなく、国際送金も手間カネをかけずにできる。

 通貨のあり方はテクノロジーとともに変わる。印刷技術の発展は紙幣を可能にし、鋳造技術の発展は貨幣を可能にした。コンピュータや暗号技術の発展は、仮想通貨を可能とした(あるいは、しつつある)。ビットコインはその先鞭(せんべん)であって、「サトシ・ナカモト」を名乗る正体不明の人物が、ブロックチェーンという新技術とともに公開した。本書はそこに至るまでの人類の通貨史を辿(たど)るとともに、現在のさまざまな通貨の形態を概観し、今後のあり方を探る。

 かつてハイエクは、国家が独占的に通貨を供給するのではなく、さまざまな民間主体が供給し、質の向上が競われるべきだと説いた。当時それは思考実験の域を出なかったが、仮想通貨の登場は、その競争を現実化した。現時点では国家の通貨のほうが、圧倒的に優勢である。ただし今後の先行きは不明であり、円やドルが仮想通貨の形態をとるのもありえる道筋だ。

 ビットコインは先駆的だが、実験体のようなもので、理想的な設計というわけではない。著者は仮想通貨には好意的だが、ビットコインが主流になるとは考えていない。より優れた他の仮想通貨はいくつか登場しており、これからも登場は続くだろう。本書は決して何かを煽(あお)る本ではないが、通貨の新時代のおとずれを、強く感じざるをえない。松本裕訳。

◇David Birch=米国コンサルト・ハイペリオン社取締役。電子認証と電子マネーの国際的権威。

 みすず書房 3400円

読売新聞
2018年6月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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