『陸軍中野学校と沖縄戦』 川満彰著

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陸軍中野学校と沖縄戦

『陸軍中野学校と沖縄戦』

著者
川満 彰 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784642058667
発売日
2018/04/18
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『陸軍中野学校と沖縄戦』 川満彰著

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

無謀な「時間稼ぎ」

 大本営陸軍部直轄で、ゲリラ戦、防諜(ぼうちょう)、策略、宣伝などを任務とする特殊部隊の養成組織、陸軍中野学校はよく知られていよう。一九七四年にフィリピンのジャングルから生還した小野田寛郎も卒業生である。

 語学堪能で長髪も多い陸軍中野学校の卒業生たち四二名が、本土決戦のための時間稼ぎと見定められた沖縄本島と離島に潜伏し、地元の少年たちを猛特訓して「護郷隊」を組織、ゲリラ戦や情報戦等に従事させた事実が次々に明らかにされる。生き残った卒業生と護郷隊に対する膨大な聞き取りと史料調査をもとに積み上げられた歴史研究である。

 大隊長の村上治夫は長勇参謀長に、ゲリラ戦は「こんな小さな島では通用しません」と初対面で訴えていた。そもそもが無謀な計画だった。

 さらに、満一七歳未満の少年が法令違反であるにもかかわらず強制的に志願させられ、護郷隊の内実も知らぬまま、危険な任務に向かわされる。だから生き残った元少年兵は、著者に「なぜ、私たちのような少年が兵隊にならないといけなかったのか、教えて欲しい」と尋ねるのだった。

 少年兵の多くは自分の命より国体が大事であると叩(たた)き込まれ「靴を脱ぎ足の親指を引き金にあて銃口を口にくわえる自決訓練」もさせられた。米軍の捕虜にならなければ、少年たちは、米軍の猛攻撃や手榴(しゅりゅう)弾による自決によって散っていった。

 また、波照間島から西表島のマラリア地帯へ島民を強制疎開させ多数死亡させ、波照間島の国民学校の児童を体罰で教員に殺させた酒井喜代輔も、陸軍中野学校出身の潜伏特務員。彼が戦後残した次の言葉に、沖縄戦と真摯(しんし)に向き合うことを避けてきた戦後日本の宿痾(しゅくあ)を見ずにはいられない。「軍の命令で仕方なくやった」。戦後の人生を亡き部下の慰霊に捧(ささ)げた村上と対照的に描かれる。

 大本営は、沖縄でのゲリラ戦の経験を本土決戦で活(い)かすはずだった。このありえたかもしれない過去を、その苦味とともにかみしめたい。

 ◇かわみつ・あきら=1960年、沖縄県コザ市(現沖縄市)生まれ。名護市教育委員会市史編さん係嘱託職員。

 吉川弘文館 1700円

読売新聞
2018年6月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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