『竹内政明の「編集手帳」傑作選』
書籍情報:版元ドットコム
『竹内政明の「編集手帳」傑作選』 竹内政明著
[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)
竹内政明氏が執筆した朝刊コラム「編集手帳」シリーズの最終巻。ご本人は『ヘタクソメ』という題にしたかったが、却下されたとのこと。『ふんどし博物館』という原案がしりぞけられて、引用・文章の秘術を披露したロングセラー『名文どろぼう』になったことを思い出す。
文章家は華麗なる「どろぼう」、わがモンテーニュも「ミツバチはあちこちの花をあさって蜜を作るけど、すべて彼のもの」(『エセー』)と述べている。書庫で本をあさる著者の写真が収められているが、そのまなざしは鋭い。
そこから生まれるのが、「負けた人」「日の当たらない人」に優しい名文の数々。「日の差す方角ばかり探している人に、虹は見えないのです」(倉嶋厚)や、藤圭子の死に際しての「星一つ命燃えつゝ流れけり」(高浜虚子)といった名句が、大抵は添えられる。
「生命は/その中に欠如を抱き/それを他者から満たしてもらうのだ」(吉野弘)をもじるなら、読者は「編集手帳」で、おのれの欠如を満たしてもらったのです。「炭(たん)ガラ」とはめっそうもない、いつまでも心が暖まります。(中公新書ラクレ、920円)