『ファーストラヴ』 島本理生著

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ファーストラヴ

『ファーストラヴ』

著者
島本 理生 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163908410
発売日
2018/05/31
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ファーストラヴ』 島本理生著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

 ある夏の日、就職試験を終えたその足で父親を刺殺した女子大生・聖山環菜(ひじりやまかんな)が逮捕された。臨床心理士の真壁由紀は、事件を題材とした本の執筆のため「動機は自分でも分からないから見つけてほしい」と語る環菜や周辺人物の調査を始める。その過程で明らかになる、環菜の心が通ってきた数々の景色と言葉たち。それらを追体験するうち、由紀は、蓋をしたはずの自らの過去を振り返らざるを得なくなる。掴(つか)めたと思えば指の間をすり抜けるように、次々と形を変えていく登場人物たちの心。独特の緊張感が頁(ページ)を捲(めく)る手を休ませない。

 著者の小説を読むと、人の心は複雑な立体物なのだと痛感させられる。著者の文章は常に、心の裏側にまで届くよう、かすかな襞(ひだ)にも分け入れるよう、その先端が細く尖(とが)っていると感じる。特に今作はそんな緻密(ちみつ)な表現と、複数の主題(環菜の事件、由紀の過去)の同時進行によるリーダビリティが両立している印象を受けた。特に、楽団の如(ごと)く様々な感情を鳴らす心たちを率いたのち、指揮者よろしくきゅっと指を畳むかのような最後の一行。あまりに鮮烈だ。

 文芸春秋 1600円

読売新聞
2018年6月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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