人生は苦しくて当然? 『嫌われる勇気』の著者が語る「幸福」の本質

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成功ではなく、幸福について語ろう

『成功ではなく、幸福について語ろう』

著者
岸見一郎 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344033009
発売日
2018/05/24
価格
1,210円(税込)

人生は苦しくて当然? 『嫌われる勇気』の著者が語る「幸福」の本質

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

本書は、講演と人生相談への回答、「挫折」について問われたインタビュー記事から成り立っています。通底するテーマは「幸福」です。 幸福についてはもうずいぶん長く考えてきましたが、私にとってこの問題を考える大きな転機になったのは、『嫌われる勇気』に続く完結編である『幸せになる勇気』で幸福について論じたこと。その後、学生時代から折に触れて読んできた哲学者の三木清の著作を集中的に読み直す機会が与えられたことでした。(「あとがき」より)

こう綴っているのは、『成功ではなく、幸福について語ろう』(岸見一郎著、幻冬舎)の著者。文中にもあるとおり、古賀史健氏とともにベストセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(ともにダイヤモンド社)を生み出した人物です。

もとより、「幸福とはなにか」というような問いには簡単に答えられないもの。しかし著者は、本書で考え方のひとつの道筋を明らかにできたと感じているそうです。まず重要なのは、成功と幸福は別物であるということ。多くの人が人生の目標とみなしているのは、幸福ではなく成功だというのです。

三木は幸福が「存在」であるのに対して、成功は「過程」であると説明しています。成功するためには何かを達成しなければなりませんが、何も達成しなくても、今ここで幸福で「ある」ことができるということです。 反対に、何も達成できなくても、あるいは、何かを失うことがあっても、そのことで不幸になるわけではないのです。(「あとがき」より)

幸福のあり方は人によって違う

成功するために達成しなければならないと思われていることには、たとえば「よい(と思われている)学校に入り、よい会社に就職する」というようなことがあります。しかし、そのような人生だけがすべてではないということ。なぜなら、若い人が親に勧められるままに進学校に入ったとしても、自分の生き方に疑問を感じることは当然ありうるのだから。

一方、三木清によれば、幸福は「各人においてオリジナルなもの」。つまり、そのあり方は人によって違うわけです。そのため、この意味での幸福を追求しようとすると、若い人であれば親から反対されることがあるわけです。

しかも、成功することが幸福であるとは限りません。人が羨むような成功を収めたとしても、幸福だと「思われる」ことに意味はなく、実際に幸福で「ある」のでなければ意味がないということ。

また、成功を幸福と同一視している人は、自分の価値を「なにができるか」という生産性の観点からしか見ないことが多いものの、実際のところ人の価値は生産性では測れないと著者はいいます。その証拠に、「人生は思いどおりになる」と豪語している人が、事故や災害、病気など「思いどおりにならない」経験をすると、大きなダメージを受けることに。

人の価値は生きていることにあるのです。その上で、何かができる人はそのことで他者に貢献することはできます。若い中学生、高校生の前で行った講演では、持てる才能を他者に貢献するために活かそうという話をしましたが、歳を重ねいろいろなことができなくなっても、そのことで自分の価値が減じることはないということを知っておかなければなりません。(「あとがき」より)

「人生は苦もあれば楽もある」は間違い

さらに、人生は苦であると著者は主張しています。「人生は苦もあれば楽もある」のではなく、苦であると見るほうが人生の真理に近いというのです。そして、人は「いまここ」でしか幸福であることはできないともいいます。

苦しいことがあったとしても、「現状はこうなのだ。私は、これからなにをなすべきなんだろうか」と考える。厳密にいえば「これから」ではなく「いま」なにをすべきかを問わなければならないということです。

さて、冒頭に引用したとおり、本書は著者が行ってきた講演と人生相談への回答、「挫折」について問われたインタビュー記事から成り立っているものです。ここでは第3章「喧嘩に勝たない人の期待にこたえない」のなかから、相談と答えをひとつピックアップしてみたいと思います。

やる気に満ち溢れた職場で、私だけが会社の期待にこたえられず焦っています。

悩みは、漠然としていて、このままではいけないけれど、動けない状態です。 私は三十歳になり、独身で、二十歳で就職した接客業で今もずっと働いています。昔から、欲はそんなに強いほうではなく、すごい志を持っていたわけではありません。 今の職場は環境もよくやる気に満ち溢れた職場です。今まではその中で、私も頑張ろうとやる気をもってやっていたつもりですが、求められること<売上目標の達成>ができずもう会社からの信頼はないに等しい感じです。 今まで気にかけてもらった分、私も返していきたいと思っていますが、どうしても自分の悪いところと向き合えず、それを隠そうとして小さい嘘をたくさんついてしまいます。 そういう性格もあって、本当に思っている愚痴とか誰にもいうことができず、今がすごく苦しいです。今の仕事を辞めても、また同じようなことの繰り返しだろうともわかっていますし、辞める勇気もありません。目標を持つことが大事とわかっていますが、その気力も今は瞬間的でまったく続きません。迷惑をかけたくない、後輩に情けない目でみられたくない、思えば思うほど逆効果です。 どうやってこの負のループを抜け出したらいいのでしょうか? まとまってない文章で申し訳ないのですが、よろしくお願いします。 (あーみ・接客業・30歳・女性・大阪府)) (157ページより)

この問いに対し、著者は次のように答えています。

誰もが志高く一生懸命仕事しなければならないとは、私は思いません (159ページより)

悩みは、それが漠然としているうちは解決の糸口を見つけ出せないもの。だからこそ、最初にすべきは、「いったい、なにを悩んでいるのか、問題はどこにあるのか」を明らかにすること。

いまの仕事を続けようと思い、このままではいけないと思うのであれば、動くしかないわけです。このままではいけないと思っているのに動けないなら、それは、このままではいけないと本当には思っていないということ。

そのことを踏まえたうえで、仕事をするときに誰もが志を持って一生懸命がんばらなければならないとは思わないと著者は述べています。やる気はあっても困らないけれど、必要以上のやる気はいらないということ。やる気に満ち溢れた職場であっても、周囲と同じように働かなければならないわけではないわけです。いろいろな働き方があってもいいのだから。

仕事に必要なのは「気力」ではなく「努力」

がんばろうとやる気をもって働いてみても、結果を出せないことだって当然あるはず。それが原因で会社から低く評価されることもあるでしょう。そのような現実を前に、「いままで気にかけてもらった分、私も返していきたいと思っています」と考えるのももっともなこと。

しかし、そこから先が間違っているのだと著者。自分の悪いところと向き合えず、それを隠そうとして小さい嘘をたくさんついてみても、現状を変えることはできないからです。では、どうすればいいのでしょうか?

まず、何が問題だったのか、どうすればよかったのかということをしっかりと知ることです。(中略)自分の悪いところと向き合えず、それを隠そうとして小さい嘘をつくというのは性格ではありません。性格ではなく、仕事で思うような結果を出せない時にしてしまう行動パターンでしかありません。それなのに性格だと思ってしまうのは、変えられない、少なくとも変えることは難しいと思いたいからです。(161ページより)

次にすべきは、今後、目標を達成するためにはどうすればいいか、なにができるかを検討すること。しかしその際、ただ漠然とした目標を立てるだけではだめ。達成可能な目標を立て、それを達成できたら次のやや高い目標を立てるべきだというのです。

必要なのは「気力」ではなく「努力」です。簡単ではなくても達成可能な目標であれば、目標を達成するためには努力は必要ですが、気力は必要ではありません。(163ページより)

そして第三は、後輩にどう見られるかを恐れないこと。現状の自分のことを情けない目で見る人がいたとしても、それを止めることは不可能。そんなふうに見られたくないなら、努力するしかないわけです。

また、思っていることを打ち明けられる人を見つけることも大切。自分の弱いところを見せられるというのは大切なこと。完全な人などいないのだから、同じような悩みを持っている人も多いことに気づくことになるだろうといいます。(159ページより)

著者の主張は強い説得力を感じさせるものの、そこに押しつけがましさはありません。おそらくそれは、確固たる哲学的思想に基づいたものであるから。しかも平易で読みやすいので、「幸福」についての著者の考え方を無理なく受け止めることができるはず。ぜひ、多くの方に読んでいただきたいと思います。

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Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年6月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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