『ノモレ』の著者・国分拓インタビュー「アマゾンの“時間”を書く」 NHKスペシャル「最後のイゾラド」から生まれた一冊

インタビュー

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ノモレ

『ノモレ』

著者
国分 拓 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103519614
発売日
2018/06/22
価格
1,760円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【国分拓『ノモレ』刊行記念インタビュー】アマゾンの“時間”を書く

[文] 新潮社

――アマゾンにはこれまで何回行かれましたか。

 最初は一九九九年で、今年四月からの出張で十五回目。全て、テレビ番組を作るためです。『ノモレ』を書くきっかけとなったNHKスペシャル「大アマゾン 最後のイゾラド」(二〇一六年八月七日放送)では、二〇一四年から三回に分けて、計八十五日間ほど滞在しました。

――南米七か国にまたがり、「緑の魔界」と呼ばれるアマゾン熱帯雨林とはどんなところですか。

 奥地に単独で入り込むようなことをしないかぎり、もはやアマゾンは「緑の魔界」ではないと思います。特にブラジルでは。道路ができ、森が牧場や畑に変わってしまった今、そんな場所は「先住民保護区」か「自然保護区」にしかありません。一九九九年にブラジルに行ったとき、サンパウロから四時間ほどマナウスまで飛んだのですが、離陸して一時間もしないうちに、眼下は見渡す限りの原生林でした。ところが今はずっと牧場。風景は劇的に変わりましたね。『ノモレ』の舞台ペルーには二〇一四年に初めて行きましたが、とにかく動物や昆虫の密度がすごい。ブラジルではよほどの幸運がない限り撮影できない鳥や蝶が楽勝で撮れたりして。でも、ブラジルのようになってしまうのは時間の問題でしょうね。
 アマゾンにいるときは毎日、こんな虫だらけのところは嫌だ、早く帰りたい、と思っているんですよ。コロッケくらいの大きさのゴキブリがいたりしますからね。
 でも、不思議なんです。日本に帰ってしばらくすると、あの凄まじい雨に打たれたいとか、ゆっくりと流れる川で泳ぎたいとか、あの森の音を聞きたいとか、突然思い出すんです。ちょっと焦がれるような感じで。心ではなく肉体が、あの暴力的な自然の威圧を欲しているのかもしれませんね。

――大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した前作『ヤノマミ』は、先住民ヤノマミ族の精神世界を深く描いたルポルタージュでした。『ノモレ』はノンフィクションですが、実在の人物で先住民イネ族出身、三十六歳の村長ロメウを主人公とした「物語」としても読めます。

『ノモレ』とはイネ族の言葉で「仲間」「友」という意味です。最初は一人称や三人称にも挑戦したのですが、どれも、頭の奥におぼろげにある目的地にさっぱり辿り着かない。ある日、もう一つ視点がいるのではと思って書き直してみたら、一番しっくりきたんですね。これでどこまで書けるかやってみようと思った結果が、「物語」だったのだと思います。僕には、情報だけが必要とされる現代にあって、生き辛いという思いがあります。だから「物語」に挑めるテーマに巡り合えたことをとても幸せに思っています。

――『ノモレ』では、イゾラドの家族と、「元イゾラド」の文明化した先住民の出会いが書かれています。

 イゾラドとは、「未接触の先住民」のことを言います。いわゆる文明社会と一度も接触することなく、深い森の中で隔絶されて生きてきた人たちです。未知の人間、と言ってもいいと思います。殆ど、部族名も言葉も歴史も、何も分かってはいない人たちなのですから。

――ロメウの先祖に伝わる百年越しの「再会の約束」が作品の軸にあります。一九〇二年、ロメウの曾祖父が、入植者の白人が経営するゴム農園で奴隷にされ、そこから逃げる際に、森のなかで仲間と生き別れになったとのこと。これも、実話なのですね。

 二〇一四年に初めてロメウの集落モンテ・サルバードに行ったときに、長老から聞いたのが最初です。ペルー政府は集落に現れたイゾラドのことを「マシュコ・ピーロ」と呼んでいました。「凶暴で野蛮な人間」という意味です。私たちも当然、そう呼んでいたんですね。そうしたら、それを聞いていた長老が「彼らはマシュコではない、我々と同じイネだ」と怒り出したんです。「マシュコとは二度と言うな、彼らは私たちの仲間(ノモレ)なんだ」と血相を変えて。これには驚きました。イゾラドの取材にこんな奥地まで来たのに、「彼らはイゾラドではない、自分たちの同胞なんだ」と言い出すわけですから。余りに突拍子もなかったので、適当にやり過ごした記憶があります。モンテ・サルバードには六日ほど滞在したのですが、離れる前の日に村の人たちが送別会をしてくれたんですね。その席でも長老が同じ話をするんです。またやりすごそうと思ったのですが、そのあと彼は南米で天然ゴムが採取され、先住民が白人に搾取された時代の悲劇を語り出した。知識こそ少しありましたが、ナマの声で凄惨な歴史を聞くのは初めて。しかも、集落で語り継がれてきた話ですから、とても引き込まれるものがありました。そして、最後の方に彼はこう言ったんですね。「わしらはノモレを探すために、ここに移住してきたんだ」と。最初は信じられませんでした。
 それが、ロメウの話を聞くうちに変っていったんです。ロメウは物静かで誠実な人、というのが第一印象でした。こちらの質問に、最後まできちんと付き合ってくれる。ただ、ぽつぽつと喋るので、テレビのインタビュー向きの人物ではないから、困ったなとも思いました。実際、ずいぶんテレビカメラでのインタビューをしたのですが、番組では一カットも使われていません。でも、そのインタビューがあったからこの本が書けたわけで、何がどうなるか、わかりませんね。

――国分さんにとって、ノンフィクションを書くとはどういうことですか。

 テレビ番組と同じものしか書けないのなら書かない、ということ。そして、テレビ(映像)では難しいとされる、「時間」を描きたいということです。

新潮社 波
2018年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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