映画『世界でいちばん長い写真』6月23日公開! 映画公開記念対談 誉田哲也×草野翔吾

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世界でいちばん長い写真

『世界でいちばん長い写真』

著者
誉田 哲也 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334764852
発売日
2012/11/13
価格
607円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

映画『世界でいちばん長い写真』6月23日公開! 映画公開記念対談 誉田哲也×草野翔吾

[レビュアー] 誉田哲也(作家)


映画『世界でいちばん長い写真』より

――草野監督が、この作品を映像化するにあたって、もっともこだわられた、大変だったことはなんでしたか?

草野 この作品の撮影がこれだけ遅れたのは、やっぱり、夏しか撮れないってことが最大の理由なんですよね。ヒマワリ畑は絶対に外せないと、僕もプロデューサーも思ってましたから。夏に撮れなかったら、また来年ってなってしまうんです。それが、知多(ちた)半島の、山本さんが「世界でいちばん長い写真」を披露した、ひょっとしたら誉田さんがご覧になったニュースの現場だったのではないかという高校が協力してくれるかもしれないという話になって。そこから一気に動いたんです。知多半島にはヒマワリもあるし!と。実は、原作を最初に読んで、僕がまずこれを撮りたいと思ったのは、ヒマワリ畑に三脚を立てて、宏伸たちがしゃがみこんでいるシーンで。

誉田 あそこはよかった。

草野 あのシーン、「音楽入れたほうがいい?」って作曲家に言われたんですけど、「ここはカメラが回る音だけで」ということにしました。

誉田 いいですよね。風の音とモーターの音だけで。絶対に正解です。

――高校で撮影をされていたときに、誉田さんが撮影見学に行かれたんですよね。いかがでしたか?

誉田 本当の、普通の高校生、撮影現場になった学校の生徒さんたちが出てくれてたんですが、年もそんなに変わらない高杉さんたちキャストのみなさんに、興味があるわけです。撮影は休憩を何度も挟みながら何時間も続いていたので、休憩のたびに、キャストの方々が待機するテントに生徒さんたちが少しずつ近づいていって、いつの間にか、仲よさそうに話していたりして。そうやってると、全然違和感ないなあと思いました。

――ちょうど、エキストラの学生さんたちが入る、大人数の撮影の日だったわけですね。大変そうですね……。

草野 めっちゃくちゃ大変でしたよ! いざクランクインに向けて準備が始まったときから、「このシーンどうするの」って思ってましたから。みんなの役割とどういう動きをするのかを決めなきゃいけないし、そもそも雨が降ったらアウトだし、かと言って炎天下のなか、夏休みにわざわざ来てくれたボランティアの高校生たちにやってもらうわけですから……。本当に、よく撮れたなと思います。そういう撮影の日に、誉田さんに見学にいらしていただいて、その時が初対面だったんですけど、僕、テンパって、逆にテンションが上がっちゃってたんですよね。誉田さんにハイタッチを要求したような……。終わった後に、「うわー、初対面なのに俺何やってんだ」と思ったんですけど(笑)。

誉田 いやいや(笑)。

草野 あのシーンの撮影では、キャストの俳優たちも「俺俳優だから」みたいな雰囲気を出すような人はいなくて、セッティングのあいだも高校生たちと話して、盛り上げてくれて。あの人数は、僕だけでは盛り上げきれないし。高杉くんが中心になって、みんなに声を掛けてくれたおかげで撮り切れたんだと思います。やっぱり違うじゃないですか、おじさんが声掛けるのと、高杉くんが声掛けるのでは。

誉田 高杉さんはスタイルがいいから大きく見えるんですけど、すごく華奢で小柄な方ですね。しかし、この作品だけじゃないですけど、映像化されるときの登場人物たちは、僕がイメージするよりは二割増しくらいでいい男いい女になります(笑)。宏伸、かっこいいなおい、って。

草野 僕は、高杉くんが宏伸に決まって、すっごい安堵しましたね。高杉くんと仕事をしたことのある人から、「高杉くんは普段はおとなしくて謙虚で、ボソボソした感じで喋る」って聞いて、それって宏伸ピッタリじゃんって思ってました。

――誉田さんにとって、撮影見学で受ける刺激は、どういうものなのでしょうか。

誉田 今回のような大人数のシーンでなくても、静かなシーンであっても、まわりにはたくさんのスタッフがいるじゃないですか。それがまず、僕の仕事とは大きく違います。担当編集者はパートナーだけど、現場で待機しているわけじゃないですから、僕の仕事は、本当に僕ひとりで完結するんです。同じ話や同じシーンをやるにしたって、映像にするためにはメイクの方からロケバスの運転手さんから、本当に多くの方がかかわっている。だから、いつも思うのは……いい加減なことを書いちゃいかんな、と(笑)。別に誰かを困らせようと思って書いているわけではないんですけど、僕が書いたシーンを、生身の人間を使って再現しようとする方が後に出てくる可能性があるんだな、と。次の作品も、しっかり、ちゃんと書かなきゃな、とは毎回思います。

草野 僕は、「ここは雨降っていたらかっこいいな」と思いついて、そう書くことによって、とんでもない数の人が苦労を強いられることが以前の作品でよくわかったので、「雨」と「運転しながらの会話」は、こわくて書けなくなりました(笑)。ほんとうは良くないことなんですけどね、自分で自分の想像力を制限してしまうのは。監督として現場にいる弊害だと思います。ホン書くときは自由に考えればいいんですけど。

――すべての撮影を終えた後、編集され、初号試写があったのは昨年の年末でしたね。あのときって、監督はどういう風に思われているんですか?

草野 初号ですか? 最悪ですよ! ずっと吐きそうですもん。オールラッシュっていう、撮影したものを音楽も入っていない状態でただ繋いだだけのやつを見る機会があるんですけど、それの次に厭ですね。初号は逃げも隠れもできないので。

誉田 公開処刑みたいな(笑)。

草野 普通の映画館じゃ見えないようなところまで、全部見えちゃってるような気がして。アラが見えやすくなってるように思うんです。僕、初号のあと、一回も観てないですもん。

――試写を観た誉田さんの感想はいかがですか?

誉田 くすぐりが多くて、いろんな感情を呼び起こしてくれるんですけど、わざとらしさがなくて、すごく自然な仕上がりなんですよ。それがよかったな、と。押しつけない面白さがあって、間とかアングルとかが、本当に上手だなあと思いました。宏伸が自転車で撮影場所を探して走り回るシーンも、すごくよかったですね。あの少し古い町並みの映り込みかたとか。日本の事情がわからなくても観られるので、海外の方にも観てもらえる機会があったらいいなと思いました。

――誉田さんも私たちも、初号試写を観て、「素晴らしい!」って盛り上がっていたのに、監督は吐きそうになっていたと。

草野 記憶飛んでますからね。初号試写の思い出がほとんどもうない(笑)。

 ***

6月23日(土)より、
シネ・リーブル池袋・イオンシネマにて
全国順次ロードショー!

高杉真宙 武田梨奈 松本穂香 水野勝 吉沢悠 小松政夫
c2018 映画「世界でいちばん長い写真」製作委員会

光文社 小説宝石
2018年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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