15年後の悪夢
[レビュアー] 折原一(作家)
1985年、筑波学園都市で開かれたつくば科学万博に「ポストカプセル郵便」という企画があった。そのポストに投函すると、21世紀の最初の日に指定された宛先に届くというものである。
会期中、「ポストカプセル」に入れられた手紙の総数は328万通。それらはすべて筑波学園郵便局の保管庫の中にしまわれ、2001年の元旦、全国にいっせいに配達された。
しかし、15年の歳月はあまりにも長く、投函した人のほとんどはその手紙を出したことを忘れており、受け取る側にどのような反響を呼び起こすか想像もしていなかった。
手紙は、例えば15年の間に死んだ祖父母からのものだったり、病死した夫や事故死した子どもからのものだったりする。故人の手紙以外にも、これから生まれてくるわが子へ送る母親のものや、15年後の自分を鼓舞するものまで、実にさまざまである。手紙をもらう側は過去からの思いがけない便りに最初は戸惑うものの、手紙の「意図」を知ると、その内容に笑ったり、喜んだり、悲しんだりする。
届いた手紙は、心あたたまるものやちょっぴり悲しいものが多いが、その中にもし大事な手紙がまぎれこんでいたらどうだろう。手紙を書いた本人が、意図せず間違ってその「企画用ポスト」に重要なものを入れてしまったとしたら……。
それがこの『ポストカプセル』を書いた私の発想の原点である。例えば、熱烈なラブレター、遺書、脅迫状、待ち合わせの手紙、文学賞の受賞通知など緊急を要する手紙がポストカプセルにまぎれこみ、15年後に届いたら、受け取る側は困惑するだけではすまないだろう。
この小説に入っているのは7つのケース。それぞれ突然やってきた手紙により、忌まわしい過去の封印が解かれ、思わぬ事件へと発展していく。そして、それらは一つの意外な出来事に端を発することがわかるのである。
騙されないよう注意して読んでいただきたい。