『完全犯罪の死角』
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刑事花房京子の登場
[レビュアー] 香納諒一(作家)
私、コロンボのファンです。何度かインタビューで話したりエッセイに書いたりしてることですが、小学生時分、すなわち70年代に放映された「必殺仕置人」「太陽にほえろ!」「夜明けの刑事」「Gメン’75」といった数々のテレビドラマを夢中で見たことが、私を作家にした大きな原動力だったと思っています。そこに太字で書き記しておきたいのが、「刑事コロンボ」です。最初に観たコロンボは、「死の方程式」で、今、資料で調べたら、73年が日本放映、私は十歳でした。コロンボの罠に引っかかり、犯人がロープウェイの中で冷や汗を流した挙句にみずから犯行のトリックをさらけ出してしまうクライマックスに、体がぞくぞく震えました。
あの当時は毎週、土曜日の夜にコロンボを放映していました。毎週末、個性豊かな犯人たちが完璧と思われる犯罪工作を行い、コロンボが小さな疑問を持ち、ささいな手がかりをこつこつ見つけ出して追い詰め、最後には留めの一撃を見舞うという「黄金律」の流れに、何度となくうっとりしたものでした。
自分もいつかはこんな作品を書き上げたいと思いながら、長い歳月が経った末、このたび『刑事花房京子 完全犯罪の死角』を上梓することができました。私は新作に取りかかる時に、どうも慎重なほうみたいですが、コロンボ以上に特徴がある刑事を登場させたい。そして、味のある犯人役を書きたい。このふたつを思うと、なかなか書き出すことができないままで、長い時間が経ってしまいました。
が、背高のっぽで同僚たちから陰では「のっぽのバンビ」と呼ばれ、頭脳明晰でありながら子供のような好奇心で犯人を追い詰めることで、時には可愛らしく、時には残酷でもある女刑事を作り出せた時に、このシリーズの成功を予感しました。今作の最後の一行は、間違いなく読者の心を打つはずです。