『火刑列島』
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思いがけぬ同乗者
[レビュアー] 森晶麿(作家)
編集Wさんとの出会いは、今から八年ほど昔に遡(さかのぼ)る。まだ作家としてデビューする前のことだ。その頃、こちらは本の編集や装丁、漫画家斡旋などで出版各社に営業をかけている真っ只中だった。飛び込み営業にも拘(かかわ)らず、Wさんは静かな物腰で丁寧に接してくれた。
その後、アガサ・クリスティー賞を受賞した際に連絡をし、「ジャーロ」での連載依頼をいただき、現在に至っている。どちらにとっても、思いがけぬ同乗者みたいなものだったんじゃないかという気がする。
二年前、連載を終えた『怪物率』を出版していただき、さて次はどうしましょうという話になった。その時、蠅のような複眼を持った男の話はどうかと編集Wさんにお話しした。蠅の目にはこの世界がスローに見えるという。そんな複眼持ちの人間でも禍(わざわい)は防げないものか、と興味が湧いたのだ。
それがどういうわけか、火の現象が予(あらかじ)め見える〈予現者〉と、火と対話できる消防士、美人現象学者の男女三人によるロードノベルになった。僕とWさんのように、人生には思いがけない同乗者がいるものだが、小説にもきっとそんなところがあるのだろう。
もっとも、先が読めるはずの〈予現者〉や、火と対話できる者がいても禍は防げないのか、という本作のテーマは、あながち元のアイデアとまったく違うとは言えまい。元アイデアの変奏曲といったところか。
出来上がった五話連作は、バラエティに富みつつ終盤の大災厄に突き進む新世紀エンタメ小説だ。この大風呂敷に相応しいタイトルを付けねば、と大いに悩んだ。連載当初は「飛んで火に入る三人」。でも小ぢんまりしている。
と――悩んでいる我が目が書棚に吸い寄せられた。目に留まったのは『火刑法廷』と『火刑都市』。今さら、「火刑」という語がテーマに符合していると気づいた。タイトルもまた、思いがけぬ同乗者みたいなものだなと思う。