死と洋裁教室『エンディングドレス』蛭田亜紗子

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エンディングドレス

『エンディングドレス』

著者
蛭田 亜紗子 [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784591155103
発売日
2018/06/08
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

死と洋裁教室『エンディングドレス』蛭田亜紗子

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 これは要注目作。蛭田亜紗子は前作『凛』で北海道の過酷な歴史の一端を突きつけて着実な飛躍を感じさせたが、最新作『エンディングドレス』も染み入る人間ドラマを提示してくれる濃い一冊。これは激オシしたい。

 32歳で夫を亡くした麻緒は生きる気力を失い、自分も後を追おうと決意。首を吊るためのロープを買いに行った刺繍洋品店で、「終末の洋裁教室」の案内を見つける。エンディングドレス、つまりは「死に装束」を作るという趣旨にふと惹かれて参加すると、そこには黒ずくめの服を着た控えめな女性講師と、3人の個性豊かでお茶目な老婦人の生徒たちがいた。最終的にエンディングドレスを作製することを目標に、〈はたちのときにいちばん気に入っていた服〉〈十五歳のころに憧れていた服〉など課題をこなしていくうちに、麻緒は老婦人トリオそれぞれの服にこめた思い、そして過去を知る。

 大きな喪失を経験した人物が人の優しさに触れて立ち直る話といえばありがちだが、ここまですべてがぐっと心を掴む設定になっているのは決してありがちではない。洋裁教室の生徒や先生の過去や服にこめた思いも心に刺さるが、さらに突き刺さるのは、麻緒がある事情で罪悪感を抱えている点や、夫が遺したものが存外残酷である点。そうしたある種の負の面を背負わせつつも、この主人公を前に進ませるよう引っ張っていくエピソードの積み重ね方も非常にうまい(パジャマが出てくる場面ではもう、目頭が熱く……)。湿っぽくなることもなく乾いた筆致が保たれるからこそ、主人公が冷静に、真に気力を取り戻していく様子も伝わる。人は死ぬまでは生きるのだという当たり前のことを、柔らかな、確かな質感で届けてくれる一作。

光文社 小説宝石
2018年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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