『安土唐獅子画狂伝 狩野永徳』
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絵筆で戦う信長との真剣勝負
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
『洛中洛外画狂伝狩野永徳』に次ぐ第二弾『安土唐獅子画狂伝 狩野永徳』が遂に刊行された。
前作では、永徳が「洛中洛外図屏風」を完成させるまでの苦悩が描かれていたが、今回は、信長から依頼された計百枚にも及ぶプロジェクト、安土城障壁画への挑戦が描かれている。
挑戦とはいいながら、それこそこれは、覇王信長と永徳の真剣勝負――信長を満足させられなかったら、まず命はない。
この第二弾は、登場人物も多彩で、「あんたを追い越さねば、わしは絵師として大成できぬ」と、永徳をライバル視し、かつ、狡猾な一面を持つ長谷川等伯、「今後、茶は、すべての技芸を従える諸芸の王となり、絵すらも茶を支える芸の一つとなりましょう」と断じる千宗易、絵師と武士との間で揺らぐ海北友松(かいほうゆうしよう)、永徳にひとときの安らぎを与える切支丹パウロ三木等々――。
これらの人物が綿密な構成の中、「信長と絵で戦ってみたいのだ」という永徳の心の襞(ひだ)と絡み合っていく。
そして永徳は、妻・廉の死も看取ることなく、自分は画狂の飢餓地獄へ墜ちて死ぬのだろうと思いつつ、つがいの唐獅子の絵を完成させる。その絵を一目見たとたん、永徳の歓びも哀しみも、そのことごとくを理解してしまう信長――思えばこの二人は天才と狂人のあいだを、行きつ戻りつしながら、一人は武で、一人は絵で天下を取ったのではあるまいか。読了して、永徳の信長に対する「あなた様は、もっと複雑な方でございましたな」の一言が耳朶に残る。
恐らく、この作品は、三部作になると思われる。千宗易の発言が、この後、秀吉との火種となるのは明らかだし、これに永徳がどうかかわっていくのか楽しみだ。