グロテスクで残酷、コミカルで幻想的、癖になる“粘膜”シリーズ

レビュー

7
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  • 粘膜探偵
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  • 粘膜蜥蜴
  • 粘膜兄弟
  • 粘膜戦士

書籍情報:版元ドットコム

グロテスクで残酷、コミカルで幻想的、癖になる“粘膜”シリーズ

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 待ちに待ったあのシリーズの新作が出た! 期待値マックスで読んでも裏切られることなく大満足。思い切りグロテスクで残酷、だけどコミカルで幻想的、そして緻密な構成力に圧倒されてしまう飴村行『粘膜探偵』。実に6年ぶりの“粘膜”シリーズ最新刊である。

 舞台は架空の日本、戦時下の東京。14歳の少年鉄児は憧れの「特別少年警邏隊」への入隊を果たすが、先輩隊員の暴走行為の巻き添えとなり、謹慎処分を受けてしまう。雪辱のため独自にある殺人事件を調べ始めた彼は少しずつ真実に近づくが、そこには大きな落とし穴が。

 鉄児は医学者の父と寝たきりの祖母、爬虫人の使用人、影子と暮らしている。爬虫人とは東南アジアの小国に住むトカゲの顔をしたヒトに似た生き物で、日本では労働力として重宝されている。影子も気立てのよい働き者ではあるが、嘘のつけない性格で、人に訊かれれば雇い主一家の悪口や秘密もペラペラ喋ってしまう困ったちゃんだ。本作では彼女が、たまらなくいい味を出している。

 物語は鉄児が追う事件、父親が育てる奇妙な植物、軍部の陰謀などの謎が絡まりあい、とんでもなく凄惨な場面へと読者を導いていく。正直、気持ち悪いくらいだが、それでも読み進めてしまうのは、単なる悪趣味に陥らないギリギリの品性とストーリーテリングの上手さ、適度に盛り込まれるユーモアによって浮かび上がる人間(と爬虫人)の滑稽味と哀しさがあるからだろう。

 シリーズはこれまでに4作が刊行されている。第一作は第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作の『粘膜人間』(角川ホラー文庫)で、『粘膜探偵』に通じる世界観の中、小学生ながら195センチの巨体と横暴な性質を持つ弟に怯える兄2人が、河童に弟殺しを依頼する。第二作は傲慢な少年と爬虫人の下男のかけあいが捧腹絶倒ものの『粘膜蜥蜴』(同)、第三作は田舎の双子の兄弟の三角関係が展開する『粘膜兄弟』(同)、第四作は短篇集『粘膜戦士』(同)。一冊でも読めば、この世界の虜になるはず。

新潮社 週刊新潮
2018年6月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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