『ロラン・バルトによるロラン・バルト』 ロラン・バルト著

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ロラン・バルトによるロラン・バルト

『ロラン・バルトによるロラン・バルト』

著者
ロラン・バルト [著]/石川美子 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784622086918
発売日
2018/05/17
価格
5,184円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ロラン・バルトによるロラン・バルト』 ロラン・バルト著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

卓越した文章家の新訳

 「テクスト」「エクリチュール」等の概念を駆使する「新批評」の旗手としてコレージュ・ド・フランス教授にまで登りつめるも、交通事故であっけなく世を去ったバルト。日本論『表徴の帝国』や写真論『明るい部屋』で名高い。再来年で没後四〇年、この間、フランスでは完璧な全集が刊行された。日本でも著作集全一〇巻がようやく完結し、『表徴の帝国』は『記号の国』の題で、プロレス論で始まる時評集は『現代社会の神話』の題でと、多くの新訳も収められた。バルトの全著作が日本語で読めることになった。

 『ロラン・バルトによるロラン・バルト』は待望の新訳、他の作品との関連がわかる三〇〇以上の訳注など、懇切丁寧な仕上がり。これは「永遠の作家」という評伝シリーズの一冊で、家族の写真までも収録されて、自伝的な部分も少しはある。けれども、表紙裏に「ここにあるすべては、小説のひとりの登場人物によって語られている」とあるのを読み逃すなかれ。しかも登場人物が「わたし」「あなた」「彼」「R.B.」と変化する。そして、断章という偏愛する形式が採用される。断片化と語る主体の分散化。こうして彼は「自己」を見つめ、ときに弁明を行う。そこに漂うのは、悲しみ、倦怠(けんたい)、含羞の念。

 「親しいあいだでは、たがいに<形容詞>をなくすことである。形容詞をもちいて語りあう関係は、イメージの側に、支配や死の側にある」(「形容詞」)、「すこしの差異は人を人種的差別へと導く。だが、おびただしい差異は、差別からどうしようもなく遠ざからせる」(「複数、差異、衝突」)。断章は格言にも似るが、彼は「格言とは(中略)古典的なイデオロギーに結びついている(中略)傲慢(ごうまん)なものだ」(「格言」)と逃げも打つ。それにしても卓越した文章家であった。弟子筋アントワーヌ・コンパニョンのバルトとの交友録『書簡の時代』(中地義和訳、みすず書房)も必読。石川美子訳。

 ◇Roland Barthes=1915~80年、仏の批評家・思想家。著書に『モードの体系』『テクストの楽しみ』など。

 みすず書房 4800円

読売新聞
2018年6月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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