『航空機を後世に遺す』 横山晋太郎著

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『航空機を後世に遺す』 横山晋太郎著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

博物館づくりの奮闘

 「飛行機? 興味ない」という人にも、ぜひお勧めしたい本だ。

 著者の横山氏は1947年生まれ。国の「航研」に勤めたが、日本にも欧米のような航空博物館を作ろうと思い立ち、45歳で岐阜県各務原市の職員となる。奮闘の末「岐阜かかみがはら航空宇宙博物館」(空宙博)の開館にこぎつける。現在では、戦中の三式戦闘機「飛燕(ひえん)」や戦後の実験機「飛鳥」など、日本人が作ってきた歴代の航空機など34機を展示するまでになった。

 横山氏が語る博物館の哲学は、興味深い。

 ドイツ技術博物館は、急降下爆撃機「スツーカ」を、あえて戦場に不時着してボロボロになった「最期の姿」で展示する。航空機という「もの」に歴史と人間を語らしめている。

 米国のスミソニアン航空宇宙博物館は、広島に原爆を投下したB29の実機「エノラ・ゲイ」を展示している。日本の報復を恐れ垂直尾翼のマークを塗り替えた時期や、世間から忘れられ格納庫の片隅に保管された時期もあった。現在は原爆投下時の姿に復元している。それを栄光の姿と見るか、戦争の悲惨を考える一次資料と見るか。実機が残っていればこそ、子々孫々に至るまで観客は自分で考えることができる。

 日本はどうか。当初、建築家が持ってきた建物の案は「地球に難破した宇宙船」という珍妙なデザインだった。横山氏はあわてて却下。業者は「修復」と「修理」を混同し、歴史的な機体に残る人間の痕跡まで洗い落としてピカピカにしてしまう。「観客が機体にさわったり乗ったりして楽しめるように」という無茶な意見が通った結果、展示機体の部品が盗み去られる事態も続出。横山氏の苦労は絶えなかった。

 日本の動物園は、昭和中期まで「お猿電車」が売り物の遊園地だったが、今は研究や種の保存の拠点、観客が楽しみながら学ぶ場になった。日本人の科学技術に対する意識が高まり、航空博物館もそうなる日が来ることを願う。

 ◇よこやま・しんたろう=広島県生まれ。各務原市空宙博参事、東京文化財研究所客員研究員などを歴任。

 グランプリ出版 2400円

読売新聞
2018年6月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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