『三つの空白 太宰治の誕生』 鵜飼哲夫著

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三つの空白

『三つの空白』

著者
鵜飼 哲夫 [著]
出版社
白水社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784560096284
発売日
2018/05/18
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『三つの空白 太宰治の誕生』 鵜飼哲夫著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 太宰治の作家人生には中断の時期が三回ある。そのうち一九三七年、最初の妻の密通をきっかけとする第三の空白期が最大の危機だったが、これをくぐりぬけたところに「明るい太宰」が登場した。その指摘が、本書のクライマックスをなしている。

 『人間失格』などの作品から、放蕩(ほうとう)、自己嫌悪、破滅といったイメージが太宰にはつきまとう。著者はそれも一面として認めながら、人間の弱さを見すえ、それをやわらかなユーモアに包んで表現する「明るい太宰」の側面に注意をむけている。この魅力があるからこそ、いまでも多くの読者を得ているのだろう。

 母親と二人の妻、そして娘である作家、津島佑子をはじめとして、太宰の周囲の女性たちの面影が、生き生きと伝わってくるのもおもしろい。自分勝手で無責任な太宰に、女たちは翻弄(ほんろう)され失望するが、それでも太宰を理解しようとするのをやめない。

 太宰の読者もまた同じように、小説にふれる過程でその世界にひきこまれ、作品のなかに自分自身を発見する。そんな回路があることを、この力作評伝は教えてくれる。

 白水社、3000円

読売新聞
2018年6月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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