宇喜多の楽土 木下昌輝 著

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宇喜多の楽土

『宇喜多の楽土』

著者
木下 昌輝 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163906522
発売日
2018/04/26
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

宇喜多の楽土 木下昌輝 著

[レビュアー] 清原康正(文芸評論家)

◆民のため動く異色の戦国大名

 戦国時代といえば、戦国大名たちが領土をめぐる戦いに明け暮れた「下克上」「弱肉強食」の乱世という血なまぐさいイメージが強い。だが、そんな時代に、戦ではなく干拓事業を推し進めることで蔵入地(直轄領)を増やし、民の暮らしを安らかにすることをめざした武将がいた。関ケ原の戦いに敗れて八丈島へ流された宇喜多秀家である。

 豊臣政権の五大老の一人だった秀家は、八丈島で約五十年も生き延びたのだが、本書は八丈島で心穏やかに暮らすまでの波瀾(はらん)の半生を描いた長篇。秀家の葛藤のさまを通して、戦国乱世の過酷な状況が浮かび上がってくる。

 少年の頃から弱き者に情をかける優しさを持っていた秀家は、権謀術数で備前・美作と備中半国、播磨の一部を領有する戦国大名にのし上がった父・直家に、当主を継がずに流民を救ってやりたいと訴える。直家は秀家に、民を安んじる楽土をつくることが悲願だと干拓中の海辺の地を見せる。

 父の死後、十一歳で家督を継いだ若き当主の前に、高く分厚い壁がたちはだかる。秀吉に仕えた秀家は、秀吉の養女・豪姫(ごうひめ)を娶(めと)る。だが、天下統一の道を突き進む秀吉から過酷な軍役夫役が続いて課せられた。朝鮮への渡海は二度とも命じられた。家中の家臣たちの造反による内紛にも手を焼いた。

 八丈島で流人として暮らす秀家に、加賀前田家から十万石の大名に取り立てるという誘いがもたらされるが、秀家は島に残ることを決断する。秀家の時代に抗(あらが)う思いが強く表れた決断で、まことに異色の戦国大名であった。

 著者の単行本デビュー作『宇喜多の捨て嫁』は、直家の謀略のさまを描いて直木賞候補となった。宇喜多ものの第二作である本書も次の直木賞候補になったが、秀家が接する秀吉や家康の人間像、いくつもの戦いの模様と戦場における心理、豪姫との絆のありよう、楽土に寄せる熱い思いなど、さまざまな仕掛けをめぐらせて盛り上げていく手腕に磨きがかかっている。

(文芸春秋・1836円)

1974年生まれ。作家。著書『人魚ノ肉』『天下一の軽口男』など。

◆もう1冊

上田秀人著『梟(ふくろう)の系譜』(講談社文庫)。秀家までの宇喜多4代を描く。

中日新聞 東京新聞
2018年7月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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