人生についてのヒントが見つかる? 哲学者ヴィトゲンシュタインの5つのことば

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人生についてのヒントが見つかる? 哲学者ヴィトゲンシュタインの5つのことば

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインは1889年にオーストリア・ハンガリー帝国の大富豪の家に生まれた人物。ベルリン工科大学やマンチェスター大学工学部でジェット推進プロペラの設計に打ち込むものの、その過程で数学基礎論に関心が移り、ケンブリッジ大学で数学、論理学、哲学を学んだのだそうです。そして1922年には、唯一の哲学書である『論理哲学論考』を出版。これが当時の哲学界に大きな衝撃を与えました。

兵士であった五年間も含めて六年越しで書かれた原稿は1922年に独英対訳の単行本としてイギリスで出版された。

これが有名な『論理哲学論考』であり、ヴィトゲンシュタインの生前に刊行されたただ一冊の哲学書である。この薄い一冊が当時の哲学界に衝撃を与えた。

従来のほぼすべての哲学を真っ向から否定した書物だと思われたからである。

とはいっても、従来の哲学書のここかしこがまちがっていると指摘したのではない。
人間の論理的な思考と表現に用いる文章(命題)というものが
いったい世界のどこまでを伝えうるものなのか、
どこまでしか伝えられないものなのかを論理の点から考察したのである。(中略)
哲学が取り組みながらも解明できない問題は難しいのではなく、
そもそも言語で言い表せないものを言語で表現しようとするからなのだ。
言葉で言い表せないものはただ示すしかない。
あるいは口をつぐみ、音楽や絵だので別に表現するしかないというわけである。 (「はじめに」より)

ヴィトゲンシュタイン 世界が変わる言葉 エッセンシャル版』(ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン著、白取春彦編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、難解だと言われてきたヴィトゲンシュタインの文章を、『超訳 ニーチェの言葉』で知られる編訳者がわかりやすくコンパイルしたもの。

『論理哲学論考』を筆頭に、死後に編纂され発刊された『哲学的考察』『哲学的文法』『青色本・茶色本』『哲学探求』『心理学の哲学』『確実性の問題』などのなかから、読者にとっての「役立つことば」を厳選しているわけです。

きょうはIV「人生について」のなかから、印象的ないくつかのことばを抜き出してみたいと思います。

きみの生き方が世界そのものだ

きみがこれからも今までのように生きていくならば、世界もまた今までのようでしかないだろう。 けれども、きみが今後の生き方をなんとか変えていくならば、それにつれて世界もまた別の新しい顔を見せてくれるだろうし、世界はさらに広がっていくだろう。 きみと世界は別個に存在するわけではない。また、すでにある固まった世界の片隅にきみが置かれているわけでもない。 きみ自身がきみの世界だ。そして、きみはきみの世界で生きている。だから、きみの生き方できみの世界はいくらでもよくなっていくのだ。 実は、きみ自身が一つの小宇宙なのだ。(論理哲学論考) (102ページより)

不快さもこの世界からのプレゼント

生きている限り、悪口を言われたり、非難されたり、軽蔑されたりすることはいくらでもあるものだ。 それは不快だろう。反撃したくもなるだろう。自分の正しさを主張したくなるだろう。議会を解きたくなるだろう。言い訳もしたくなるだろう。 しかし、それもまたこの世界に生きていることから来るプレゼントではないだろうか。そういった不快さをも自分のものとして受け止めていくのが、人がここに生きるということではないだろうか。(『フレーザー「金枝篇」について』) (106ページより)

小さなことにギスギスするな

ふだんのわたしたちは大雑把に処理したり、おおよそのところで理解したり、ミスや手ちがいを気にしなかったり、まあまあのところで了解したり、用事の一つを忘れていたり、お互いに欠点や罪があっても赦したり赦されたりしている。 そんなふうに何事も厳密にしているわけではないからこそ、人間的な緩さが互いの間にあるからこそ、今のわたしたちの生活はどうにか成り立っているのだ。だから、小さなことにギスギスするなよ。(『確実性の問題』) (109ページより)

因果の法則などありえない

これをやったらこういう結果になる、という因果の法則なんてものは存在しない。 わたしたちが原因と呼んでいるものは、すべて勝手に決めた仮説だからだ。一つの原因が必ず特定の結果を生むことはない。 あることを行ない、それがどういう事態を生むかは前もって知ることなどできはしない。何でも起こりえる。また、何も起きないこともある。 だから、行動することに怖じ気づくな。心配するな。果敢に行なえ。行なわないで悔やむよりはずっとましだ。(『ウィトゲンシュタインの講義1』) (113ページより)

人生を変えたいなら 仕事でも環境でもなく態度を変えよ

自分の人生を変えようという人は多い。そこで彼らは仕事を休む場所をがらりと変えたり、人間関係を変えたりするのだ。 しかし、彼らはなぜか人生改善のための最重要事項に気づいていない。 自分の人生を変えてよくするためには、自分の態度を変えなければならないということに。それが人生改善のもっとも有効な方法だということに。(『反哲学的断章』) (117ページより)

全183種ものことばが、「考えることについて」「言葉について」「心について」「人生について」「人間について」「世界について」「自己について」とテーマごとに分けられたうえでコンパクトにまとめられています。どこからでも読むことができ、しかも文庫サイズなのでバッグに入れておいても邪魔にならないはず。ちょっと時間ができたときなどに開いてみれば、役立つことばを見つけ出すことができるかもしれません。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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