『選んだ孤独はよい孤独』
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器用に生きられない男たちの愛すべき葛藤の物語
[レビュアー] 都甲幸治(翻訳家・早稲田大学教授)
優しくて気が弱いと人はどうなるか。他人にいいように使われ、時間とエネルギーを奪われる。暴力で威嚇され、思ったことさえ言えない。
「男子は街から出ない」のヨシオもそうだ。二九歳で仕事もせず、母親から貰ったお金を握り締めて、小学校時代の仲間と遊び歩く。友人たちは勝ち負けにしか興味がなくて、人を言葉で牽制し、必要ならケンカも辞さない。
ボウリング場でもそうだった。「オレたちは強い。いるだけで場を支配するような空気を、わざとまき散らす。全員がそれを自覚しているけど、気づいてないふりをして、自分たちのテリトリーでは王様のように振る舞った」。その中でヨシオは、バカにされ続ける。
ならばどうして一緒にいるのか。一人になるのが恐いからだ。けれども、たまたま隣のレーンになった中学の同級生の野崎智子に、すべてを見抜かれてしまう。実はヨシオは彼女のことが好きだった。京都の修学旅行で唯一共感し合える関係になったのが彼女だったのだ。ヨシオは今、人生の前で立ちすくんでいる。果たして彼は友人たちの支配を断ち切り、愛を得ることができるのか。
「女の子怖い」の加瀬も辛い。高校時代の思い出作りに美人の内山花音(かのん)と付き合い始めた瞬間、地獄が始まる。遠くまで送らされる。食事の金を払わされる。LINEの返事が遅れると激しく詰(なじ)られる。彼女は「言うことを聞かないと不機嫌を撒き散らして暴言を吐く」。
しかも、男の子が求めているのはセックスだと信じる彼女は、関係を強要してくる。だが加瀬は自分が穢(けが)れてしまったと思う。我慢が限界に達した加瀬は、自分のスマホをアスファルトに叩きつけて割る。
男はセックスしたがるもの、人生は勝ち負けしかない。そういう考え方は不幸しか呼ばない。内なる繊細さを認め、それを受け入れ合える相手を見つけたとき、はじめて心の喜びは得られるだろう。主人公たちの今後が気になる。