福知山脱線事故の13年間 「真相究明」闘いの記録

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軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い

『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』

著者
松本 創 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784492223802
発売日
2018/04/06
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

被害者家族とともに13年間 真相究明の闘いを続けた記録

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 2005年4月25日月曜日、JR西日本福知山線の上り快速列車が午前9時18分ころ脱線事故を起こす。当時の、上空から撮られた写真を覚えている。1・2両目は線路脇のマンションに激突し大破していた。死者107名、負傷者562名という大惨事となった。

 本書はこの事故で妻と妹を亡くし娘も大怪我を負った淺野弥三一(やさかず)に密着した著者が、発生直後から、淺野たち遺族とJR西日本の幹部が共同して「課題検討会」を開き検証結果を発表した後、現在までの13年間の記録である。

 元神戸新聞記者の著者は、都市計画コンサルタントの淺野と公害訴訟関係の取材で知り合いになった。事故直後、家族が犠牲になったことを知り淺野の元へ通うようになる。

 乗客の命を奪ったというのに、その事故を起こした企業は頭を下げつつも自己保身の言葉を繰り返す。高飛車な物言いに遺族は反発し、険悪な関係となる。

 家族の死を無駄にしないため、せめて事故の原因を知りたいと思うのは当然だ。当初、原因は若い運転手の不注意と発表された。だがなぜ彼は時刻表の遅れを取り戻すために、無謀ともいえるスピードをだしブレーキもかけずに脱線転覆させたのか。この疑問に対する回答はなかった。

 国鉄が分割民営化されたのは1987年のこと。だが事故の時点でも、まだ旧国鉄の官僚体質は改められておらず、JR西日本の「天皇」と呼ばれる人物が実権を握っていた。

 その体質が変わってきたのは刷新人事で社長となった山崎正夫と淺野の邂逅による。JR西日本初の技術畑出身社長である山崎と淺野は、技術者として認めあい、後に中立的な学識経験者を加えた三者からなる事故検証委員会の設置に結びついた。

 平成も終わろうとする今に至っても「昭和の妖怪」が蔓延(はびこ)っている。それを拭い去った長い闘いの経過は息づまる迫力だ。このすべてを書ききった著者に拍手を送りたい。

新潮社 週刊新潮
2018年7月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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