【文庫双六】山頭火と同じ放浪の詩人「無用の達人」山崎方代――梯久美子

レビュー

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山頭火と同じ放浪の詩人 「無用の達人」山崎方代

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

【前回の文庫双六】漂泊の俳人「山頭火」の“しぐれの句”――川本三郎
https://www.bookbang.jp/review/article/555010

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 山頭火はカッコイイ。名を捨て欲を捨て、ひたすら歩いて句をよむ漂泊の人生に、中高年の男たちは皆しびれる。

 その山頭火に例えられることのある歌人が山崎方代(ほうだい)である。大正3年、山梨県は右左口村(うばぐちむら)(現在の甲府市右左口町)の生まれ。徴兵されて南方を転戦、右目を失明し、戦後は靴の修理技術を身につけて日本各地を転々としながら歌を詠んだ。その方代の評伝、田澤拓也『無用の達人 山崎方代』は無類の面白さだ。

 山頭火と違って、方代はぜんぜんカッコよくない。貧乏でいつもよれよれの服装なのはまあいいとして、話を盛る癖があり、図々しくて見栄っ張り。「知り合いの女性に俺の子が欲しいと言われて種付けしたんだよ」などと自慢し、相手から「西東三鬼にそんな話がありましたね」とパクリを見破られて、思わず飲んでいた酒をこぼしてしまう。

〈おのずからもれ出る嘘のかなしみがすべてでもあるお許しあれよ〉

 女性にもてないが色気は捨てず、片思いを繰り返す。生涯独身だった。

〈一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております〉

 ほとんどホームレスのような暮らしを続け、晩年にようやく得た住処は、鎌倉で中華料理店を営む夫婦が、自分たちの家の庭の隅に建ててくれた4畳半のプレハブだった。といっても昭和47年に40万かかったというから大変な出費だ。

 方代は独特のチャーミングさを持っていて、世話をする人が次々に現れる。みんな困ったりうんざりしたりしながら、どうしても方代を憎めないのである。その不思議な魅力を、この本は絶妙な筆致で余すところなく描いている。

 亡くなったのは70歳。肺がんである。やっと世の中に名を知られ始めたのに……と未練を残しながら、でも少しずつ諦めて死んでしまうラストには泣けた。

〈故里の右左口村は骨壺の底にゆられて吾が帰る村〉

 私の一番好きな歌である。

新潮社 週刊新潮
2018年7月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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